「ミャンマーにおける考古・建築遺産の調査・保護に関する技術移転を目的とした拠点交流事業」(建築分野)による第三次現地派遣

リスによるクラックゲージの破損とクラックディスクの設置
技法調査
煉瓦試験体の製作
レクチャーの様子
現地職人による煉瓦積み実演

 文化庁より受託した標記事業(奈良文化財研究所からの再委託)の一環として、今年度第3回目(9月17日~10月2日)の現地調査を実施しました。今回は外部専門家3名を含む計6名を派遣し、構造挙動モニタリングや、伝統建築技法と生産技術に関する調査、材料実験等を行いました。
 3回目の測定となる構造挙動モニタリングでは、対象建物3棟ともに変形の進行は特に認められませんでした。ただ、クラックゲージの一部が鳥獣の加害により脱落し、継続的な計測ができなかった測点もありました。このため、クラックゲージの被覆やクラックディスクへの交換など、現場の状況に応じた対策を講じました。
 文化遺産建造物が持つ価値には、外形だけではなく建造に用いられた技術も含まれています。ところが、バガンにおける従来の修復作業では当初技法の保存・再現への意識が乏しく、これに関する既往研究も極めて限られています。そこで、今回の調査では建築構造および保存修理分野の専門家とともに20物件を対象に煉瓦積みの技法を確認し、あわせて現地で修理に携わってきた職人へのインタビューや実演を通じて生産技術に関する情報収集も行いました。
 また、技術支援の一環として9月20日にミャンマー宗教文化省考古国立博物館局バガン支局にて講義を行い、副支局長をはじめ13名の同局スタッフが参加しました。「アジア諸国の組積造文化遺産の地震被害」(東京文化財研究所、友田正彦室長)、「レンガ造文化遺産建造物の構造解析のための調査と事例」(東京大学、腰原幹雄教授)、「シャトーカミヤ旧醸造場施設の保存修理工事」(文化財建造物保存技術協会、中内康雄参事)の3題をオムニバス形式で行い、特に補強に関する材料や工法等については強い関心が示されました。
 一方、ヤンゴンではMyanmar Engineering Society (MES)とYangon Technological University (YTU)の協力を得て9月23日~10月1日に煉瓦単体(14点)の圧縮強度試験を行いました。また、バガンでの生産技術調査から得た情報に基づいて材料と配合比が異なる3種類のモルタルを使ったプリズム(4段積の煉瓦試験体)各9体、円筒のモルタル試験体各3体、正方形のモルタル試験体各3体を作製しました。これらについての強度試験は約2か月後に行う予定です。
 引き続きこのような調査や実験を通じて、バガン地域の文化遺産建造物の保存・修復に有益なデータをさらに蓄積していきたいと思います。

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