第10回文化財情報資料部研究会「甲賀市藤栄神社所蔵の十字形洋剣に対する検討」の開催

第10回部研究会風景

 滋賀県甲賀市水口に所在する藤栄神社は、同地を治めた水口藩加藤家の藩祖で戦国武将の加藤嘉明公を祀るため、19世紀前半に創建された嘉明霊社を前身とする神社であり、その所蔵品には加藤嘉明所蔵と伝えられるさまざまな宝物が含まれています。豊臣秀吉下賜とされる黒漆塗鞘付の十字形洋剣一振もそうしたものの一つで、16世紀から17世紀にかけてヨーロッパで造られた細形長剣(レイピア)とまったく遜色のない出来栄えのほぼ完存品であり、国内唯一の伝世西洋式剣と見られますが、これまでさほど注目されることなく長らく甲賀市水口歴史民俗資料館に保管されて来ました。
 平成28(2016)年9月、筆者のほか、永井晃子氏(甲賀市教育委員会)、末兼俊彦氏(東京国立博物館)、池田素子氏(京都国立博物館)、原田一敏氏(東京芸術大学)の5名が共同でこの剣の美術史および理化学的な調査を実施しましたので、その概要と検討結果を平成29(2017)年2月24日に開催した本年度第10回文化財情報資料部研究会で報告したものです。
 各氏の発表題名は、永井氏「藤栄神社蔵十字形洋剣をめぐる歴史的経緯」、小林「藤栄神社に伝わる十字形洋剣(レイピア)の実在性と年代の検討―博物館コレクション・出土資料・絵画資料による予察―」、末兼氏「藤栄神社所蔵の洋剣について」、池田氏「藤栄神社蔵十字形洋剣 X線CTスキャンおよび蛍光X線分析について」、原田氏「藤栄神社蔵十字形洋剣について―海外資料との比較―」となりますが、藤栄神社や加藤嘉明、また剣や関連遺物に関する歴史・時代背景への検討、金工史的視点による柄文様や制作技術の考察、CTスキャニングや蛍光X線分析結果の報告、そして海外に所蔵されているレイピアとの比較検討、といった多角的な視点による第一次検討結果が報告されました。
 またさらに、この洋剣の制作地が日本国内であるのか、あるいは海外であるのかという問題は、桃山時代工芸技術のあり方やその歴史評価を考える上で重要な課題であり、発表後の討論でも様々な意見が議論されましたが、統一的な見解を得るには至らず、本洋剣の重要性と更なる研究の必要性が改めて認識されました。

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