脱活乾漆造の菩薩立像の調査

菩薩立像 個人蔵

 企画情報部のプロジェクト研究「美術の技法と材料に関する広領域的研究」の一環として、都内在住の個人が所有する脱活乾漆造の菩薩立像(像高77.1㎝)の調査を6月21日(木)に行いました。この脱活乾漆造とは、粘土で原型をつくり、その表面に麻布を貼り固めたのちに、像内の粘土を除去して中空にするとともに、麻布の表面に漆木屎を盛り付けて塑形する仏像制作技法であります。周知の通り、わが国におけるこの技法による仏像制作は天平時代(8世紀)に盛行しましたが、現存の作例数は極めて限られています。そのような現状にあって今回調査対象となった菩薩立像は、これまで存在が知られなかった作例であります。像は表面に後補の漆箔が認められるとともに、破損部には補修が存在するのも事実でありますが、保存状況は比較的良好であり、ほぼ完全な姿で今日に伝わっていることは特筆されてよいでしょう。渦を巻くように纏められた「螺髻(らけい)」の表現や、面部の肉取りの様子等から制作時期は8世紀の最末もしくは9世紀に入ってからのようにも思われました。ただし、脱活乾漆造の調査の常として、目視による表面観察からだけでは、ことに技法面において何層にわたって麻布貼りが行われているのか、また、どの程度、補修・後補部が像に及んでいるのかなどが、いまひとつ判然としないもどかしさが残るのも事実です。今後、所蔵者の了解を得て、X線透過撮影を行い、構造を中心に材料・技法の研究を進めて、この菩薩立像の解明を進めてゆきたいと考えます。

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