“オリジナル”研究通信(1)―部内研究会、本格的にスタート

敦煌文書を調査するフランス人東洋学者ポール・ぺリオ(1908年)。 ぺリオのように文書が発見された窟内で調査を行った研究者はまれでした。

 企画情報部では来年度に開催する「文化財の保存および修復に関する国際研究集会」にむけて、目下準備を進行中です。そのテーマについて部員のあいだで討議を重ねた結果、“オリジナル”をキーワードに、文化財をあらためて見つめなおそうということになりました。たとえば復元という行為にみられるように、文化財の現場にあって“オリジナル”は常に憧れの対象なのですが、そのとらえ方は時代や地域によってさまざまに変化します。そうした中で、わたしたちはいかに文化財を伝えていくのか、とくに当部がになう文化財アーカイブの視点からこの課題に取り組んでみたいと思っています。
 テーマ設定についての五度にわたる討議を経て、さらに“オリジナル”に関する部内研究会がスタート、その第一回目として9月26日には、敦煌文書の真贋をめぐり中野照男(企画情報部)によるケース・スタディが行われました。1900年に敦煌莫高窟より山積みの状態で発見された敦煌文書ですが、その後海外の探検家や研究者によって幾度となく国外へ持ち出されたこともあり、文書をめぐる来歴は真贋の問題もふくめ錯綜しています。そうした中で進展する“敦煌学” のあり方について、保存修復科学センターの加藤雅人をコメンテーターに立てて学びました。また10月3日には無形文化遺産部の飯島満を交えた研究会で、文楽等の古典芸能を話題としながら“オリジナル”をめぐる無形文化財と有形文化財との考え方の違いについて討議しました。無形文化財のばあい、有形文化財のように過去にさかのぼった初演時の上演形態が“オリジナル”なのか、それとも上演のたびごとに新たな“オリジナル”が生み出されるのか――文化財を伝える立場として、避けることのできない問題であることを再認識しました。今後もこうした“オリジナル”をめぐる研究会を随時開いて、来年度の国際研究集会へと発展させていきたいと思っています。

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