中国新疆ウイグル自治区の仏教壁画を有する石窟の現状調査

シムシム千仏洞の景観と保存修復された石窟群
キジル石窟224窟に見られる有機物からなる赤色の色材(新疆ウイグル自治区文物局提供)

 現在、文化遺産国際協力センターでは、敦煌莫高窟やバーミヤーン遺跡、アジャンター石窟などユーラシアの広範な地域に所在するさまざまな仏教石窟において、壁画の技法材料と保存修復に関する調査、研究を実施しています。新疆ウイグル自治区は中央アジアの東端に位置し、それらの仏教壁画を東西交流という観点から比較研究する上で、非常に重要な遺跡が分布しています。中国では、敦煌研究院を中心に、研究活動や保存修復作業が進んでいます。今回、株式会社NHKエンタープライズの受託調査研究として、1月5日から12日にかけて、極寒の中、トルファンのベゼクリク千仏洞、クチャのキジル千仏洞、シムシム千仏洞、クムトラ千仏洞、クズルガハ千仏洞の石窟において、壁画の彩色技法の観察、写真記録、保存状態の調査等を行いました。調査にあたっては、日本から4名と、新疆ウイグル自治区文物局と敦煌研究院保護研究所からそれぞれ中国人研究者の参加を得て、共同で調査を行いました。これらの遺跡は、バーミヤーン遺跡と同様に、礫岩やシルト岩、やわらかい砂岩からなる崖に石窟を掘り込んでいるか、あるいは泥レンガで構造物を付加することにより祠堂などを形成し、その壁面に土壁を施し、その上に、セッコ技法によって彩色するという共通点を持っています。有機物からなる鮮やかな赤色など、比較的保存状態の良い色材もあり、今後、科学的な研究を行うことによって、シルクロードの壁画の技術を明らかにする鍵となるような、重要な成果が得られるのではないかという実感を持ちました。

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