タジキスタンにおける壁画片の保存修復

保存修復の方法論および技術を移転することにより、現地での人材育成を目指します
可搬型の蛍光X線分析器を利用して、壁画の彩色層に含まれる元素を分析している様子

 文化遺産国際協力センターは、文化庁の委託事業である「文化遺産国際協力拠点交流事業」の一環として行っている「タジキスタン国立古物博物館が所蔵する壁画片の保存修復」の一次ミッションを7月23日から8月5日にかけて派遣しました。保存修復の対象となる壁画片は、長年にわたり、ロシア人専門家によりタジキスタン内の考古遺跡から剥ぎ取られたものです(参照:http://www.tobunken.go.jp/japanese/katudo/200708.html)。
 タジキスタンでは保存修復の専門家が不足しており、これらの壁画片は、剥ぎ取られた後に適切な処置がなされないまま、古物博物館の収蔵庫に置かれています。そのため、壁画片は多くの問題点を抱えており、長期の保存や展示のために保存修復の処置が施されることが望まれています。本事業では、これらの壁画片の保存修復を通じ、当センターがこれまで行ってきた壁画の保存修復事業において培ってきた保存修復の技術をタジキスタンに移転し、保存修復のタジク人専門家を育成することを目指しています。
 保存修復が求められる壁画片が抱える問題点の一つとして、剥ぎ取りの際に壁画片に含浸された合成樹脂があります。この合成樹脂は、当時、壁画片の保護を目的として使用されましたが、樹脂の黄色化や壁画表面に付着した土を一緒に固めてしまったことにより、現在では、壁画を見えにくくしています。今回の活動では、変色した合成樹脂や固着した土を壁画片から除去するクリーニングのテストを行いました。
 また、壁画を描く際に使用された彩色材料を調査することは、当時の絵画技術や材料の入手経路などを知る上でたいへん重要です。今回、可搬型の蛍光X線分析器を持ち込み、元素分析を行い、いくつかの顔料を特定しました。その結果、現在は黒色である箇所がかつては緑色であったことや、さまざまな種類の赤色絵具を使用して、異なる色味を塗り分けていたことなどがわかりました。

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