9月企画情報部研究会

志村氏、秋本氏と聴講者との間で熱く交わされる画絹・絹糸に関する情報交流

 月例の企画情報部研究会では、9月29日(火)に、研究プロジェクト「美術の表現・技法・材料に関する多角的調査研究」の一環として、絹織制作研究所の志村明氏に「絹生産における在来技術について」の標題のもとご発表をいただきました。あわせて、同研究所の秋本賀子氏にコメンテーターとしてご出席いただきました。志村氏は近代以前の伝統的織絹の復元に日々携わっておられます。研究会のテーマとなった画絹については日本絵画の基底材であり、美術史研究者はもとより日本絵画の修復に日々携わる者にとっても非常に親しい存在です。聴講者は美術史の研究者にとどまらず、日本絵画の修復に携わる者など多岐にわたり、その分野への関心の高さが窺がわれました。
 今回の研究会では、今日まで残るさまざまな時代の画絹類を実際に調査され、それにもとづいて技術復元を行われた過程で知り得た画絹、絹糸に関する様々な知見をお話いただきました。研究会では最初に志村氏から絹糸に関する基本的な情報をご提示いただき、適宜、秋本氏にコメントをしていただきながら、聴講者から質疑を行い、これに志村氏が応答していただくという形式で進めました。そのなかで、絹糸の太さ(径)に関する単位と思われていた「d(デニール)」が絹の容量に関る単位であること、実際に復元した伝統的技術によって生成された画絹を微細に観察しながら、経糸と緯糸によって構成される織目(空隔)の密度と裏彩色の関係など、われわれ研究者が自明のことと思っていた画絹、絹糸に関する知識が非常に誤解・誤認をともなうものであったことに気づかされ、認識を改める機会を得ることができたように思います。
 この質疑・応答をもって進行した研究会は2時間を超えるものでしたが、志村氏よりご提示いただいた画絹・絹糸に関する情報・知識は非常に新鮮でした。また、志村氏、秋本氏によって制作された厚みや織り目の密度の異なる画絹、砧で打ち込んだ練り絹(絹布)の現物を手にとって、それらの感触を実感することができた経験も、今後、絵画研究に携わってゆくうえで有意義なものとなりました。

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