無形民俗文化財研究協議会「震災復興と無形文化」の開催

発表の様子
総合討議

 12月16日、第6回目を迎える無形民俗文化財研究協議会が「震災復興と無形文化――現地からの報告と提言」のテーマで開催されました。
 昨年3月の大震災以降、各地で被災地の文化を守り伝えるべく様々な活動がなされてきました。しかし震災後数か月が経っても、無形文化財とその復興については課題や情報が十分に共有されてきたとは言えない状況にありました。そこで無形文化遺産部では、震災後の無形の文化や文化財について継続的なテーマとして取りあげていくこととし、本年はその一年目として、現地で今何が起こっているのか、何が課題なのか、それを共有し、問題提起と情報発信の場にすることを目指しました。
 会では、震災以前から被災地域で活動してこられた先生方、積極的な後方支援活動や復興活動を展開している先生方5名にご発表をいただき、また、研究と行政の立場からそれぞれ一名ずつのコメンテーターをお願いしました。様々な立場の方々にお話をいただいたことで、多くの問題について、様々な角度から問題提起ができたのではないかと思います。印象深かったのは、テーマが「震災」だったにも関わらず、中心的に話し合われていたのが、実は震災以前からの課題であったことです。例えば民俗文化を保護するとはどういうことか、後継者不足や地域コミュニティの縮小とどう向き合うのか、無形の文化財行政の制度的問題、また、民俗芸能や宗教・信仰など無形の文化の持つ力や本質的意義についてなど。震災という巨大な非日常が、暴力的な形で日常の様々なひずみや、ものの本質を焙り出したといってよいかと思います。特に今回は、原発問題に揺れる福島からも発表者にお越しいただきました。同じ被災地という言葉で括られても、岩手・宮城県と福島県の状況は全く異なります。私たちはいまだに、フクシマの復興について語る言葉をほとんど持っていません。原発という、本来人間の力でコントロールできないものが、地域の文化からまったく切り離された形で抱え込まれていたという現実が、ここに改めて示されたといってよいでしょう。
 無形文化遺産部では、引き続き、震災復興と無形文化をテーマとして取り上げることで、情報発信と共有の役割を担っていきたいと考えています。なお本協議会の内容は、2012年3月に報告書として刊行する予定です。

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