今泉省彦氏所蔵資料調査

今泉省彦氏の日記資料群

 今泉省彦(いまいずみよしひこ)(1931~2010年)は、戦後前衛美術を陰に陽に支えてきた人物です。画家を志していた今泉は、1950年代に雑誌『作品・批評』などに評論の執筆をはじめ、1958年には雑誌『形象』(のちに『機関』に改称)の創刊に参加しました。この『形象』を通じて、当時の若き前衛美術家たちとの交流を深め、そこで知り合った美術家たちは、1969年に開校した現代思潮社による美術学校「美学校」の講師を担うことになります。今泉は、美学校に開校準備から携わり、1975年に美学校が現代思潮社から独立した際には取締役となって、その運営に尽力してきました。
 今泉省彦氏所蔵資料の一部は、2013年にサウサンプトン大学附属美術館ジョン・ハンサードギャラリーで開かれた「叛アカデミー」展で、美学校関連資料として展示されました。今回は、その企画者のひとりである嶋田美子氏にご紹介いただいた今泉省彦夫人・榮子様のご協力のもと、企画情報部アソシエイトフェロー橘川英規と河合大介が、日記、写真、書籍・雑誌類、書簡からなる資料の調査を行いました。特に、同じ日大芸術学部出身のルポルタージュ絵画で知られる中村宏、『形象』の座談会で知り合い、その「千円札」裁判に深くかかわった赤瀬川原平、前衛グループ・九州派の中心メンバーだった菊畑茂久馬(きくはたもくま)、日本におけるコンセプチュアル・アートの第一人者である松澤宥(まつざわゆたか)といった、のちに美学校で教鞭をとることになる作家たちに関する書簡や文書が比較的多く確認できました。
 これら作家関連資料に加えて、今泉氏自身による1960~62年頃の詳細な日記も残されており、日本の前衛美術がもっとも盛んだったころの貴重な記録が含まれていると考えられます。今後、これらの資料をくわしく調べることで、戦後美術についての研究を進めていく予定です。

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