「タンロン・ハノイ文化遺産群の保存」ユネスコ日本信託基金事業

暴露試験台の設置
歴史ワークショップ風景
遺物整理室での意見交換
奈文研での樹脂含浸実験

 ベトナム・ハノイの都心に立地する世界遺産「タンロン皇城遺跡」を対象とする本事業は、日越専門家が協力しながら2010年度より実施しており、ユネスコ・ハノイ事務所から委託を受けた東文研が日本側の実施主体となっています。今年度前半は、主に以下のような活動を実施しました。

1)遺構保存に関する現地調査
 8月7日から9日にかけて、新国会議事堂建設現場に隣接する発掘区における現地調査を実施しました。遺構が存在する土中の水分移動を計測するためのセンサーを交換・増設し、砂層埋め戻しによる蒸散抑止効果を観測するための試験区を新たに設置しました。また、出土した煉瓦に物性を合わせた試料を用いた保存処理効果の屋外暴露試験も開始しました。現場での気象自動計測も継続中で、取得したデータの分析を通じて、望ましい保存方法の提案につなげていきます。

2)歴史学ワークショップの開催
 8月21日に、タンロン遺産保存センター、ハノイ国家大学開発科学院と共催で、タンロン城中心区の構成および東アジア都城との比較研究をテーマに現地ワークショップを開催しました。文献資料の検討や近年の発掘成果に基づく日越専門家の発表、および討議を行い、依然未解明の部分が多いタンロン城の構造と変遷について、活発な議論が行われました。また、このワークショップにあわせ、日越でこれまでに発表されたタンロン城に関する主要論文を相互翻訳した研究論集も刊行しました。

3)考古遺物に関するワークショップの開催
 9月10日から12日にかけて、タンロン遺産保存センター、社会科学院考古学研究所、同都城研究センター、奈良文化財研究所とともに、タンロン遺跡出土の考古遺物に関する第1回ワークショップをハノイで行いました。今回は陶磁器と屋根瓦を対象に、形式分類の方法や製作技法、製作地などをめぐって、日越専門家が双方の知見を共有するとともに、出土遺物を実際に観察しながら意見交換を行い、共同研究の重要性を再確認しました。

4)ベトナム人専門家の招聘
 9月10日から28日まで、ベトナム林業大学の木材専門家1名を招聘し、奈良文化財研究所において、出土木材遺物の保存手法に関する共同実験を行いました。タンロン遺跡出土木材と現在のベトナム産木材の試料を用いて、樹種の鑑定や樹脂含浸処理の効果などに関する各種の実験を実施しました。

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