「文化財の保存環境を考慮した博物館の省エネ化」に関する研究会

研究会の様子
石崎副所長による開会挨拶

 平成23年夏には東京電力・東北電力管内では平成22年の最大実績(9~20時)に対してマイナス15%の節電要請がありました。重要な文化財を抱えて、各地の博物館美術館がどのように乗り切ったのか、その結果どのような問題があったのか、「博物館・美術館におけるエネルギー削減」をサブテーマに、博物館美術館の展示室・収蔵庫の温湿度設定について再考する研究会を保存修復科学センターで開催しました。(平成24年2月17日(金)東京文化財研究所 地下セミナー室、参加者66名)
 まずはじめに、平成23年12月から平成24年1月にかけて博物館美術館等保存担当学芸員研修修了生の協力を得ておこなった「美術館・博物館2011年夏の節電対策のアンケート」について佐野が結果をまとめて発表しました。収蔵庫はほとんどの館で維持管理状況を変更しないよう努力していました。展示室の温度変更をした館では、お客様が不快を訴えたり滞在時間が短くなるなどのサービスの低下のほか、虫・カビの増加、臭気の増加、金属の錆の生成などの例がありました。また、空調設定の変更により温度湿度が安定しなくなるとの注意も挙げられました。
 国立新美術館の福永治氏からは、美術館における温度湿度設定の考え方が紹介され、文化財は多種多様であると共に、貸し出す側の考え方の違い、地域の環境、建物の構造や仕様、また保存状態も様々であることから、展示環境について、統一した基準を設けることは困難であるが、コンセンサスを得るようによくコミュニケーションを取ることが重要であることが報告されました。また、長屋光枝氏から、平成23年夏に昼間のピークカット節電のために企画展示室を1室閉めた際の維持管理状況について報告があり、夜間空調で良い状態に保つことができた例が紹介されました。
 石崎から、文化財保存のための温度湿度設定に対する海外の現在の動きと方向性について報告があり、湿度変化が文化財を構成する部材に与える影響を知るために、モデル試料にたいして歪みがどのくらい生じるか実験した文献等の紹介がありました。よく調整された環境に対して短期的な変動幅が提示されるとともに、季節の変化に応じていくらかの変動幅を許容する考え方の導入(変温恒湿)についても検討事例が示されました。
 最後に、オフィスビルにおける最新省エネ技術の紹介が、清水建設株式会社技術研究所の松尾隆士氏によって提示されました。日除けが重要であること、隣接する区画をつないでエネルギーピークをカットする手法など、エネルギーを効率的に使うために比較的大規模な区画で試みられている新手法について紹介がありました。
 変温恒湿や変動幅を広げるのを許容するなど温度湿度の新しい制御方法は、本当に文化財に影響がないのか慎重に見定め、評価を関係者すべてで繰り返し討論し理解していくことが必要です。今回の研究会は、リスクマネージメントの手順でいうと、リスクアセスメントについて新情報が出てきている昨今、これを如何に評価検討し関係者間で情報共有していくか、リスクコミュニケーションの局面に入りつつあることが分かる重要な機会となりました。

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