伝統的塗装部位の生物劣化に関する調査研究

胡粉塗装部位に増殖したカビ
現地での防カビ剤を用いた曝露試験の様子

 保存修復科学センターでは、受託研究『霧島神宮における彩色剥落止めの手法開発及び施工管理』の一環として、霧島神宮での伝統的塗装部位の生物劣化に関する調査研究を実施しています。膠などの有機物が用いられる伝統的な塗装方法は、一般的にカビなどの生物劣化を受けやすくカビが発生した場合、著しく美観が損なわれます。そればかりでなく、カビが接着材として機能している膠の蛋白質を分解することで塗装面から顔料が剥離したり、代謝産物によって顔料が着色したり溶解したりと、塗装部の物理的な劣化も促進します。
 霧島神宮では、渡廊下、登廊下、拝殿の壁面に胡粉塗や黄土塗といった伝統的な塗装が施された場所でカビが広範囲に渡り増殖するといった被害が起きました。今年度は、その原因となったカビとそのカビが塗装部位に与える影響を明らかにするため、微生物学的な調査研究と、最適な防除策を提案するため現地での温湿度環境のモニタリング・防カビ剤の曝露試験を行っています。
 環境計測の結果から、気温は平地より低く、相対湿度は年平均で約70%と比較的高いことが把握でき、常在菌であれば容易に増殖しやすい環境であることが明らかとなりました。防カビ剤を塗布した現地曝露試験では、いくつかの薬剤で防カビ効果が認められましたが、防カビ剤の中には胡粉と化学反応を起こし劣化要因となるものも存在しました。また、カビの解析では、これまでに133株のカビを被害部位から分離して、菌集落の形態からグループ分け行い、分類学・生理学的解析を行ないました。その結果、分離菌株数の出現頻度が高い3つのグループがあり、霧島神宮の伝統的な塗装部位の微生物劣化に関して特に重要であると考えられました。今後、分離菌株のより詳細な解析を行い、曝露試験の結果と併せながら伝統的な胡粉および黄土塗装における微生物劣化の予防や防除対策の検討を進める予定です。

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