白馬会を観る(二)

  • 魚田生
  • 時事新報
  • 1910(明治43)/05/19
  • 7
  • 展評

湯浅一郎氏「アルカンタラ橋」「ヘネラリフエ宮殿」「ボサダデラサングレイ旅宿」「アルハンブラ宮殿」十有余点の水彩画の内で自分は此四点を選んだ、氏の水彩の何れもを通じて彼熱帯地方にでもありさうな重苦しい熱い感じの一種の色が見える然も其調子が頗る一様である爲に余り快感を与へないのだが前記の作品には夫れがない就中「アルハンブラ宮」「サングレイ旅宿」などは新しい行き方で非常に好い処がある油絵では「村娘」と「休息」とが最も傑出して居る、其強健な筆力と快濶な色調とは慥かに場中の異彩だと思ふ
矢崎千代治氏「スタンドライト」少女の肖像も無難の方だが此静物の方が寧ろ佳作だ
中沢弘光氏「馬醉木の花」「伊豆湯ケ嶋」「柿」何れも着実な研究になつたもので十余点の出品中で特に優れた作品だ、只どれにも光の説明がないドンヨリした曇つた弱い調子で如何にしても日中の光景とは受取れない、此他に新緑と題したものがある小さいのだが地面の変化など中々巧みに出来て居る併し是も光の調子が弱いので新緑の感じが充分でないのが疵だ。兎に角是等氏の作品には何れも真面目な研究の跡が見えて彼近頃一部の間に流行して居る徒らに新しがつたもの等よりは遥かに飽かぬ妙味がある
小林鐘吉氏「初夏の堤」「曇の海」前者の方が比較的無難な出来だ「曇の海」は或感じは現はれて居るが色彩に稍不快な処がある
跡見泰氏「泊船」静かな入江に二三の漁船が碇泊して居る光景で自然の感じが如何にも能く現はれて居る、此絵の前に立つて居ると何処となし静かな風が追分節でも送つて来そうな心持がする、此他に「入江」「朝凪」「夕の港」「犬吠岬」等があつて何れも面白い出来だ「暮靄」は最も苦心の作品と見受けたが少し描き過ぎた傾がある色が全体に湿濁して居るのが不快だ

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