白馬会画評(三)

  • 丹青子
  • 国民新聞
  • 1910(明治43)/05/25
  • 6
  • 展評

次に参考室に入るとフオンタネジイ(此人は日本に油絵を輸入したる恩人)の遺作、裸体の女人、一見何の奇もないやうだが熟視すれば実に正確な線で一点苟もしてない。貴重な芸術的参考品で、見て面白いとか面白くないとかの問題ではない。湯浅一郎君模写のヴエラスケースのエソポとメリツドは何らも原物はマドリツド博物館に在る。後者は往年吉田博君の模写を見たが湯浅君の方がよいと思ふ。次に之も同君模写のヴエラスケースの織女及び官女、之は最も大きい且つ非常に苦心したらしい。原物は殆ど此通りだと実見者の話である。初め見るとツマラヌが長く親む内によくなるのがヴエラスケースの画の特長だと云ふ。次にコラン先生のデツサンが六枚ある。いゝ加減に白ツぽい色を使つてコラン風だと云てよがつてる先生達に斯んな確かなスケツチが出来るかと問うて見たい。コルモンの小さな画稿と藤島君のシヤバンヌの壁画の一部分も面白い。
ずつと此まで見て来ると余り多数なので疲れて了つた。此で止めようと思つたが、それでもと尚見ていく内に六百二十八の午前と題する小幅(山脇信徳)が目に付いた。お茶の水の朝景色を描いたもので昨年の文部省の停車場の朝景色と似てるので見逃す事が出来なかつた。最後に故荻原守衛君の肖像があつた。此は画も感心しない又似てもゐないが此彫刻家の早世を惜む故に特に目を引た。(完)

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