白馬会のぞ記(上)

  • 中央新聞
  • 1909(明治42)/05/03
  • 1
  • 展評

赤坂溜池の三会堂に開会中の白馬会第十二回展覧会を一寸のぞいた、階上階下五室に出陳した水彩、油画等二百四十 五点会員外の出品もなかなか多い、常時ながら其の熱心には驚く、 入つて一番先に目に付いたのは第一室なる三宅克巳氏の水彩「木下蔭」(百八十円)緑蔭流泉の趣き極めて慎重に出来てる所に遺憾なく三宅式を発揮し説明的の感を免れぬ、同氏の「向河岸」は三 色写真かと思はれるばかりに緻密だ柴田節蔵氏の「静物」悪くはない中沢弘 光君の水彩「温泉スケツチ」四枚は伊豆の御土産だが感興 に乗じて画いたと云ふ様な所に味がある、柴田氏の「玉子」もなかなか良く 出来た、戸張氏の水彩画は「子捨人」外四枚出てるが一向感心せぬ 額に入れるよりも小説の挿絵に用ふべきものだと思ふ、二階に上がつて第二室 に入ると是れからは皆油画ばかりで先づ驚くのは島田君の「夏の海」 (百五十円)、大物で海も松も研究して画いてはあるが、浪の色が少しブライト過 ぎる様だ、佐藤均君は第一回の公設展覧会にも森を出して 當てたと記憶して居るが今度も「薄暮の森」(百五十円)を画いてる、落付いた調に何となく引着けられる正宗氏の「南国」(百五十円)は特色のある図だ、田口氏 の「御手富貴」は矢張り大作とでも云ふのだらう、李岸氏の「停琴」は無難 、太田三郎君は小品を六点出してるが「雉子」が気に入つた、安藤仲太郎 君の「夕桜」は如何にも心地が好い、第三室には和田英作君の婦人の肖像がある流石は違つたもの小林萬吾君は小さなものを四枚出 してるが「虞美人草」が艶麗、長原止水氏は「プリムローズ」「百合花」外三枚出してるが大してイムプレツシヨンを与へえなかつた岡田三郎氏の「雪景」(百円)は 面白い、肖像画二点も出色だ、柳敬助氏の「婦人肖像」と 「労働者」大陸で画いた所に特色も見える、第四室九里氏の 「跪ける女」(三百円)は見るべきものだと思つた出口清清三郎君の「夕雲」「ワンセンヌの池」「セイヌ河畔」等は尚ほ一層の奮励を望む、中村勝治郎氏は花が特意と聞いてるが二点とも敬服する、婦人の作画も五六見 えたが気のせいか感服したものは殆んどなかつた

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