白馬会展覧会

  • 東京日日新聞
  • 1905(明治38)/09/30
  • 7
  • 展評

既報せる如く同会創立十年紀念展覧会は去る二十一日より上野公園第五号館に於て開き新作及び十年以前の旧作取混ぜて五 百余点を出陳したるが新作品は甞て新派として歓迎せられし例の紫式 の朦朧画を脱却して旧派に接近し来りしもの多く見受ら れたり中に就て南薫造氏筆「燈台守」は白髪の老翁の半裸体に窓外より燈台の光漏れ来る図なるが其光の色彩及び老翁の右足の指の辺りに一考を煩はしく思はるれど兎も角も苦心の跡見 えて一寸目に着く作なりき渡辺亮輔氏筆「肖像」は全然旧派にして太平洋画会の門違ひせしにはあらざるかと思はる中沢弘光氏筆「冬 の山麓」日光中禅寺大平の森より男体山を見たる雪景に て中々の佳作なれど写生画としては少しく受取り難く雪の中より石楠華 の見えたるなど冬の男体山麓としては如何、赤松麟作氏筆「朝の写生」這次の新作品中の大作にて朝霧の裡に耕牛の行 く図なるが牛と水とに難なき能はざるも是程の大作を描きし根気 と勇気には感服の外なし小林萬吾氏筆「静」有繋に傑作なり但 し静の顔はモデルに頼り過ぎたるものなるべく聊か野卑の観あるは遺憾なり き和田英作氏筆「蜘蛛のおこなひ」は主客を取り違へたる感あり蜘蛛の画題としては余りに蜘蛛と其の巣に目を引かれず又た其傍らに立てる婦人を以て蜘蛛のおこなひを現はさんには少しく物足らざるやうなり山本森之助氏筆「湖上の吹雪」は単調なれど面白き作、和田三造氏筆「牧場 の晩帰」は赤松氏の「朝の写生」と好一対の大作にて空の着色など面白き筆なれど馬と人との背少々低く醜き観あり月の 色も更に一工夫を要せば妙ならんか小林千古氏筆「中道」寺院 の装飾画としては最も適すべく氏は同会の初陣にて出陳数も少からずいづれも奇抜なる筆にて今回の呼物となり居れり長原孝太郎氏筆「停車場」の夜は思ひ切つたる色彩にて目立ち岡田三郎氏筆 「秋林の幻影」中丸精十郎氏筆「小川、木立」は難なき画な り三宅克巳氏筆「風景」水彩の大作なり有繁に水彩専門家な れば手に入りたるものにて殊に紙の目を利用して円みを見せたる手際など敬服の外なし丹羽林平氏筆「糸のもつれ」十年以前の氏が手腕なりせばと嘆息 せしめぬ青木繁氏筆「大穴巳貴命」半製品の上に作家が余 りに懲り過ぎたる画なれば一見不得要領なれど定めて画以外に何か の理想あるべし右の外十年以前の紀念品としては黒田清輝氏筆の「小督 」の下絵を始め久米桂一郎、安東仲太郎、小林萬吾、和田英作 、藤島武二、湯浅一郎、小代為重、白瀧幾之助、丹羽林平等 諸氏の旧作を出陳し来観者をして過去十年以来洋画の進歩と変遷を歴史的に観察し一層の趣味を感ぜしむる如き思 付なり因に記す同会は十月二十日まで開場の予定なりとぞ

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