白馬会展覧会評(下)

  • 黒白子
  • 中央新聞
  • 1903(明治36)/10/21
  • 1
  • 展評

△北蓮蔵の「添乳」全体に黒く、随分骨は折れたらうが、赤坊にまるみがなく母の体とくついてゐる併しいつも大作に筆を採られるのは敬服「吹笛」何か意味ありげで小説の口絵の様だと云ふ人もある△白瀧幾之助の「復習」例によつた画様で、浅黄色が多過ぎる。
水彩画パステル画
△三宅克己の水彩画は三十点に近く、中々の勉強である。其中一番の出来と思はれるのは「雨後の森」で、強い色が非常に引立つて、遠くに光線の當つた所がよく発揮されて、而も全体にしつとりしてゐる処に妙味がある「芋畑」もよいが、今少し色彩に緻密な変化を施して貰ひたかつた「春」と「秋」とは失敗である「樹木の写生」は親切な写生で精巧の点に於て勝つて居る△中沢弘光のパステル水彩合せて六十点といふ多数、非常な勉強である、小品のみだから指して評することは出来ぬが、孰れも軽快な洒落な作である。△矢崎千代治氏水彩は孰れも色が赤きに過ぎてゐるが、其中では「奈良十三鐘」を推さう
特別室(裸体画)
△黒田清輝の「春」は少し薄ツぺらな感じがするが、併し「秋」よりはよい「秋」はバックの景色はよいが、人物は「春」程よく出来て居ない。△ヘンリー、デユモンの大な「エバ」の裸体はよく出来てゐるが品格に欠けてゐる様である△岡田三郎助の「花の香」之は洋行帰りの當時のとは痛く変つて残念乍ら左程の成効とは思へぬ。色が重く、殊に右の人物の胴が円柱的で間違つてゐる、左の人物の花を持つてる右の手が小さ過ぎる様である△湯浅一郎の画室デツサンはよいが顔が赤きに過ぎ、全体に顔の色が不十分である、室の明りは好い。
参考画
△和田英作模写のクウルベー筆「波涛」ミレ筆「落穂拾ひ」ヴエラスケス筆「王女肖像」何れも近代の名画として尊重されて居る作品で兎や角評する丈けが野暮である△山本芳翠模写「月神セメン」之は作者が仏国で初めて模写したもので、原作は織物の下画だといふことである△デンデヴヰー筆「秋の夕暮」墨画的で色が少ない、穏かで高尚な画である
△ホンタネジー筆「夕暮の田舎家」其黒く強い処に妙味があるので極めて品位があり高尚で何となく重味がある
△ブラングヰン筆「蜜柑の収穫」洒落た画曲線的に描たので趣きが非常に面白い
△コラン筆「樹蔭」下図であらう、例によつて軽快。

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