今年の白馬会展覧会は、昨年に比べると余程見ものであると聞いたか ら、此程観覧に出掛けた、併し最早閉館の時刻に差迫つて居たの で、素通も同然にサツサと観てたのだから、其画様も一々記憶に留まつて居ない が、概して云ふと、昨年のは全体打揃つて余り巧拙の差がなかつた為、 興味も割合に少かつたに引換へ、本年は絵画の類も多いし、技巧 の点も著しく進歩したものと拙いものとあるので、従つて面白さも一層深い感じがある。
それで本会の長所と短所に就て一寸考へ附いた事 を述べて見やう。先づ第一に気付いたのは、題目の選択が一体に卑近で趣味の浅薄なと思ふ事である。日本の画家などは今は形式的に 流れる弊は無論免れないが、古人の遺した善い画題を捉へ、それを取捨して筆を下すのだから、比較的高尚なものがある。余り卑近な無意味なもの 計り描て居ては、西洋画家は兎角無学で思想も卑近の様に見 えて損である。世の中の出来事を能く熟察すれば美術的で面白いもの が幾許もある、マサカ下女の洗濯抔が好画題と限つた訳でもあるまい。ト云つ て山水なら赤壁とか、人物なら仙人といふ様なものを描と、いふ論では決してない。現に今回の出画中でも岡田三郎助、和田英作氏の作には一見して、何となく高尚な意味が含まれて居るのがあることを感ずる。是れは 穴勝西洋のものを描いたからと云ふ訳でもあるまい。此等は初め画題を択 ぶ時作家の注意如何にある事であろう。
それから一体の通感は、デツサンの素養の 足りない事である。は他の会の絵画にも免れぬが）是は大概の絵 を見ると直分るのである。今其一例を挙げて云ふと、景色では場所の択 み方や、位置の切り方などに最も其弊が現はれて居ると思ふ。此場所 を択ぶことはなかなか六ケ敷いことで、余程素養がなければならぬ、又場所を択んだ上でも之を堅にするとか横にするとか、其位置を極めることも甚だ大切 である。こんな事は我々素人の言を待たないでも知れ切つたことではあるが、兎角画家の中には此知れ切つた事を忽にする傾きのあるは、頗る善くない事であると思ふ。
次に此会の出画に就て感服するものは、全く空想によつて描いたものゝ少くして、何事も写生に行つたことである。此の一切写生の傾向に赴いたのは、技巧に於て従前に比し一段の進歩を示し たもので、甚だ善い事である。それに最一つは一体に光線を描くことの巧妙 なる事であるが、是れも進歩の一つで実に感服の外はない。（鬼）