上野の絵画展覧会

  • 萬新聞
  • 1901(明治34)/11/03
  • 2
  • 展評

今日の天長節天気もし快晴ならバ上野公園ハ嘸かし賑ふならん不 忍池畔の自転車競走会又ハ団子坂の造り菊を見る序 に目下開会中なる美術院派、日月会及び白馬会の絵画展覧会に趣く人も多からん此等の人の為めに今簡略に其案内を記さんに美術院派の展覧会ハ去年程に大作傑作を多く 見ざれど猶ほ広業の「小督」蘆風の「秋の林」武山の「蒙古義経」等いづれもめでたき出来にて此派の大立物たる雅邦の作に二幅あり共に小品にて同画伯の手腕を以てすれバ朝飯前の仕事なるべくそれが百五十 円及び二百円と値打せられて売約済の札のかゝれるを見ても如何に雅邦崇拝熱の高きかを知るべく猶ほ観山大観等の作もゝはや出品せられし筈 なり日月会の展覧会に於てハ呉矯、秋水、古香等の青年画家各々 充分の腕を見せ、鞆音画伯ハ意匠天外より来るともい ふべき珍らしく面白き作を出したり猶ほ此会に於て注意して見るべきハ 大下藤次郎といふ青年画家の水彩風景数枚にて運筆穏健絵具の用ひ方極めてよろしく愛すべく楽しむべく隣りの白馬会にも多く見當らぬ佳作なり白馬会ハ此度ハ出品の好良なるよりハ寧ろ例の大臣 紳士の邸高等待合料理屋に於ける滔々たる淫風を知らず顔に看過して裸体画を以つて春畝侯の実例よりも風俗を乱すものと盲 信せる警察官が児戯に類せる干渉を此会出品の裸体画 に試みしによりて評判を取りたるらしく其切符売捌所前に市を成すを見 ても如何に助平根性の愛美術家が多きかゞ分りて頗る可笑し

前の記事
次の記事
to page top