裸体画問題(五)

  • 読売新聞
  • 1901(明治34)/11/08
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△警視庁の方針(第二部員談話)
白馬会の裸体画問題が大分喧しい 様ですな……當局者に於てハ裸体画を絶対的に禁止する方針でハ 無論ないのです然らバ方針ハどうかと聞かれて甚だ困る當庁でハこの問題を所謂事実問題として見て居るので事実そのものに依つて認定するのですから予 め一定の方針として御話する事ハ出来ない訳合です△仮令バ茲 に技術的学術的に美術家が技芸を練磨する目的で裸体画を描く者があるとする、それハ固より全然学術的にのみ関係して居る事ですから云ふ迄もなく
△警察権の及ぶ所
でハないのです、△外国雑誌などの 事に附いても疑ひを懐く人もある様ですが専門の雑誌を外国から購 求して学術の参考なり研究なりに使用する人ハ固より専門的の人々でこの裸体画を見る眼中にハ学術的以外の外に何にも無 い訳で、取りも直さず学術的の眼孔と脳髄で見るのですから少しも 社会一般の風紀を害するが如き懸念ハ無論無い道理です△所謂警察眼 ハ一般の上から詰り社会の風紀上から見るのですから同じ ものでも場所に依て大に取締を異にしなけれバならぬ譬へて云はゞ医術家 の解剖の図抔にハ随分激烈な分がある、併し之と学術的に研究する目的で所持して居ても発売しても更に差支ハ無い筈です即ち前に述べた或範囲に限られて居る専門的の人が学術研究の材料として見るものですから只画のみでなく是等の説明迄も書添へてあつても決 して警察権の立入る範囲でないのです併し同じ解剖の画であつても若 し之を大道に掲げ公刊の書籍に書いてあるとそれハ警察たるものゝ職務上社 会一般の風紀に及す関係から見てどうしても取締らなけれバな らぬのです何故なれバ一般の社会にハ技芸の人が見るが如き高尚の考へのみで見る人ハ無い教育の無い人も技芸の考への無い人も沢山居 るのですからこれ等の人々の眼で見たならバ風紀上決して害が無いとハ云 へぬ道理です之れを取締るのハ
△當然な事であらう
と信じて居ります△第五回内国勧業博覧会も追々近寄るので製作家の方でも夫夫製作 に着手せんとする人もあるでしようが當局の方針ハ前に陳べた通で能く此の辺の所を熟考して下さらバ自ら了解することであらうと思 ひます云ふ迄も無く當庁でハ裸体画を全然禁止するとか裸体美術に反対するとかいふのでハない即ち学術的に専門家の研究する材料 までも取締ると云ふ方針でハ無い只だ社会一般の風紀上から見て 警察の職責上取締ら無けれバ有害と認める場合に取締るのです から製作者も此等の事を能く脳髄に置いて製作して貰ひたいのです

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