裸体画と警視庁
(安立主事の談話)

  • 時事新報
  • 1901(明治34)/10/23
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目下上野公園に開会せる白馬会展覧会の出品中美術画に布片を纏はしめたるに付き昨今非難の声高けれども 右に就ては曩に下谷署長警視庁に出頭し此度の出品中には風俗壊乱の嫌ひあるものあり是等を公衆に縦覧 せしむるは甚だ不都合なれども又美術と云へる点より見れば全然出品を禁ずべきにもあらざれば風 俗取締の上よりして公衆の縦覧を禁じ美術奨励の点より是を別室に集めて斯道に関係 あるものゝみに閲覧を許さんと稟議したる事あり其後署長と白馬会との間に交渉したるに黒田清輝の如きは 熱心に一般公衆に縦覧せしめたしと希望するより多分警察は臨機の処置を為したるものならん尤も警 視庁の意見は欧洲にて裸体画を美術品として縦覧せしめ風俗の上より怪まざるは蓋し希臘の昔婦女の局部を神なりと妄信 したる時代より進んで裸体の全身を画き崇信したりしが此の風俗漸次欧米に蔓延し今日の如く敢て怪まざるこ とゝなりしなり左りながら我日本には古来日本の風俗として見るべき特色ありて自から国風を為せり日進文化の今日なれば素より欧米の美風長所は取て以て我短を補ふに吝ならざるも如何せん裸体画の如きは美術としては兎 も角も風俗の上よりすれば断じて取締らざるを得ざるなり云々

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