白馬会瞥見(其八)

  • 国民新聞
  • 1901(明治34)/11/06
  • 3
  • 展評

藤島武次氏の『造花』此もなかなかの大作で作もなかなか上出来だ図柄を云 へば一人の娘が白地浴裕を着てテーブルの前の椅子に腰を掛けて左の手に造花の花を持ち右に葉を持つて今如何に取付くるが善いか を考へて居る処で其れから娘の前には造花用の圧出し機械が置 かれ卓の上には造花用の色布が有つて卓の真中には小さな花立に白百合の一輪を挿されて有る其れから卓の真先の窓が半分開 いて居て先きは炎々燃く如き夏景色が人家の軒で現はされて居る処だが人物は只目の方向が不明瞭で何処を見て有るか分らないのみで 著物と云い体格と云い書きこなしが実に御上手だ其れから卓上の白百 合がかげは空色になるだろをが余り空色過ぎて居る為めにコバルト百合としか見 へないのは遺憾だ其れから窓先きの景色が非常に御手軽に出来上つて返て面白く又全体に調支を持たして居るように見へるのは感心の外ない概 して色が善すぎるのかは知らんが少しはで過ぎるかの様に見受けた其の他『霽 れ模様』だの『緑林』だのもなかなか器用に出来て面白い処も有る様だ其れから『桃の花』の写生が沢山有るが皆々面白い様に感じた◎山本森之助氏 は例年に比し非常の少数だで當会只三枚を見るばか りだ其れで景色も内地の景色と違つて皆な大き様だ出品中の最大 なる『雲の峰』は夏気最も甚だしき午後の景色で空にはウネウネした丁度ポテ トヲ的の白雲が十重二十重に現はれ実に壮快の気持が充分書き 現らわされて実に上作と云はざるを得ん其れから他の二枚の小さな景色は 大きい方に比して作が余程落ちて居るよに見へる

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