白馬会の裸体画に就て

  • 愛読者の一人
  • 国民新聞
  • 1901(明治34)/10/24
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今朝記者の警告に馮り午後三時頃上野白馬会へ参り候所恰好 く西園寺侯の来場あり案内者の機転により特に黒田清輝氏の裸体 大画の黒布取はづされ小生等も侯に尾して篤と観賞いたし候侯と幹事らしき案内者との話頭は記者に移り掩蔽不始末問題に就 ては侯も御同感に見へ「ああして隠せば無頓着に素通するものに却て 注意を喚び起させる様な訳です」と申居られ候案内者も「一端出したもの ですから撤去する訳にも行かず又無理に警察と争ふのも面白くなく実に 困て…」と答へ更に数分時の会話ありてパノラマ横手の展覧会へ彫刻 を見たいからとて入場致され候畢竟罪は警官の不見識にあるべく記者 の宿論には誰人も「官吏殿を除き」首肯する所なるべく候言論の禁遏美術の抑制是等要するに下級官吏が治安だの風俗だのの 文字を丸呑にして十二分に咀嚼せざる故と存候茲に於て官吏の教養なかなか急務と相成可く候不取敢記者の宿論を繰返し失禮致候敬 具 十月廿二日午後五時 愛読者の一人

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