秋のおとづれ

  • 牛の門守
  • 毎日新聞
  • 1899(明治32)/10/12
  • 5
  • 雑報

◎漸くの秋晴を得て上野は大分散策の人を見掛け申候此処の美術世界は白馬会の展覧会が幕開きにて一昨十日より開場いたし候
◎白馬会展覧会は場内 をいろいろに仕切りたるところ例年と目先変り陳列の工合一寸おもしろく見 られ申候出品出揃の上は三百四十五点に上るべき景気の様に候
◎昨年の展覧会に素描のまゝながら其着想上より好評の方 なりし北蓮蔵氏の「野辺の送り」はいよいよ出来上り今回の出品中面積に掛け ては第一の大作に候
◎黒田清輝氏は住友家の嘱托とかに係る「ナチユールモル ト」を出だされ候さまさまの色の麗はしく調子を取られたる処見物と存候
◎「稽古」「化粧」の図等にて人事画に一方の趣味を見出だしたるやう見 ゆる白瀧幾之助氏は女の子が蓄音機を聴き居る図を画かれ候此等の外 尚二三枚の大物出づべしとの事に候
◎一昨年白耳義より遥々同会に出品せしウヰツトマン氏夫妻は此度も四枚出品を寄せ来り候其内夫人のは菊花を描きたる大作にて売価は千二百円位とのこと兎に角今回の呼物なるべしと今よりの噂高く候
◎青年画家の中水彩画に得意 なる三宅克巳氏は客員として此展覧会に四十余枚の水彩画を出品致され候是将た例になき奇観に候(牛の門守)

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