白馬会展覧会(前号参照) 明治美術会員某氏の批評

  • 国民新聞
  • 1898(明治31)/10/22
  • 5
  • 展評

流石西洋人は西洋人丈けあつて皆落着いて居て中々いゝ、其の中 にもコランの『少女』(九一)、ウヰッツマンの『月夜村落』及『秋の落葉』は尤も いゝ少しもコセついて居らん、マリ、カセットのパステル画(色チョークにて描きし母子の像)や亜 米利加人の景色画なども余程面白い
黒田氏の『小督』は自分でも色彩がきたないと云つてるそうだが全くそうだ。下図の時一人々々書き分けてあつた者の方が反つて善かつた様に思はれる然しあゝ云ふ大きなものを纏めるのは非常 の困難だ私は能くマアあれ丈けにやつたものだと思ふて居る小品中に善いのが多 い様だショールを着て腰を掛けてる婦人の図(二0四)や干ものゝ画(二0六)なぞ は中々善い
久米氏の『残▲』(一0四)は善い出来だ長い草のボウボウとして居 る具合は余程能く書かれとる北蓮藏氏の『野辺送り』は全体の組立はいゝが坊主の後から来る爺さんの体格がまづい其他一体に形の怪 しい処が多い是れも出来上つて見ると反つて下図の方が善かつたなぞと云 はれるものだらふ
然し全体に於て若い人の書いたものは去年よりも善い様 に見える一生懸命にやつたらキツト成効するだらふと思ふ
白馬会員某氏の許
広瀬勝平氏の作は無暗に筆使ひに苦心してまゝ色彩を誤魔化 したる痕あり
山本森之助氏は正直に描れたれど余り緻密に過 ぎて自然の美趣を欠ける様に思はる
丹羽禮介氏は筆使ひにシヤレたがる 癖あり
赤松麟作氏はビチユーム臭き処ありとて旧派に近しなどゝ称せらる れど書きこなしは頗るよし
原田竹次郎氏は色彩の研究足らざる如く椎塚修房氏 の作には締りと云ふものなし
田中寅三氏は形ち確かならず中沢弘道氏 は色彩毒々しく磯野吉雄氏は筆使ひ重々しき憾あり久保田喜作氏は余りに白茶過ぎたる様に覚ゆ

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