白馬会展覧会略評(五)

  • 守中居士
  • 国民新聞
  • 1897(明治30)/11/13
  • 4
  • 展評

広瀬勝平氏「晩帰」これ亦模倣に出でたるやも料られねど、よく夕陽の情を表はし且つ人物も活動せり、唯あまり足の太きに失するは憾むべし。「彼」厳石は妙 ならず、波涛は佳なり。
赤松麟作氏「草苅」は穏なる作といふべし
山本森之助氏聞くが如くんば就学日猶ほ浅く公に絵画を示したるは今回を初なりと。然る に其筆意設色往々儕輩をぬき時に先進の墨を摩せんとするものあり、今回の出品「寂寥」の如き「畔道」の如き逸品を作るに於ては吾人その才に驚かざるを得ず 若し氏にして後来慢心の囚となることなく大に勉ることあらば造詣する処今より測るべからざるなり。
湯浅一郎氏の「夏の海浜」烈しき日光の沙上を熱する情 趣描写し得て妙なり観者時ならずに流汗せんと欲す。「森戸の晩景」落々たる松影の間夕陽を■せる海光の隠見して風景皆生動し、稜々たる松涛に知して岩間に 起れる悠揚の棹歌を聴くが如きこゝちす、蓋し氏の作中の優等なるもの。「海村の少女」金を鎔かすが如き熱日の下熱沙の上を傘さして往く蜑娘の汗ばみたる 顔、衣服の明暗など盛夏の趣描き出して余薀なし。憾むらくは後景の家鶏の大なると娘子の姿勢のあまり生硬なるを。
合田清氏の西洋木板挟刀鋭利例に依て精 巧なり。
(完)

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