雑録 ○このごろ

  • 白雲
  • 日本
  • 1896(明治29)/06/07
  • 1

○此頃洋画界に新派旧派の睨み合ひ始まりしが、是もそれらの関係よりせしものか白馬会なる一団体生れたり、事未だ確実とすべからざるも風聞に依れば此団体 は所謂新派と美術学校の一派との結合とに成れる者にして其起源は美術学校の一派が此新派を抱いて、旧派に當らんとせるに在りといふ、葢し先年国粋保存論の 潮勢は絵画界にも進入し當時盛なりし洋画も頓に日本画の為に屈せられ、美術学校には終に純粋の洋画を容れず、為めに両者の間此頃よりして互に反目の勢を加 へ来りしが時勢は漸次復活して今や洋画の気運再び揚らんとするの傾き有るに至り、美術学校派の慧き者は早くも其形勢を見て早晩洋画をも取らざる可らざるを 察し、終に新派に結合して今迄行き掛りになれる洋画派即ち旧派に當らんとするなりとか、余は門外漢なれば此風聞の果して當れるや否やを知らずと雖も萬一に もかゝる因縁より起されし者ならんには白馬会なるものは決して欣ぶ可き者にあらず。

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