中川千咲

没年月日:1976/12/23
分野:, (学)

共立女子大学家政学部教授、元東京国立文化財研究所美術部長中川千咲は、肝不全のため、12月23日午後11時30分、東京大塚の癌研究所附属病院で死去した。享年66。わが国美術史学及び文化財保護事業の先覚者中川忠順の次男として、明治43(1910)年4月3日、東京で出生、昭和9(1934)年3月早稲田大学文学部史学科を卒業し、同年4月帝国美術院附属美術研究所(現在の東京国立文化財研究所の前身)に入り、47(1972)年3月定年により退官するまで38年間在職した。この間昭和16(1941)年6月応召して21(1946)年6月まで兵役にあり、また官制改正により美術研究所が国立博物館の附属機関となった22年(1947)5月から26年(1951)1月まで、兼任で東京国立博物館陳列課に勤務したが、再び組織規程の改正によって同年2月から研究所に戻った。30(1955)年6月、東京国立文化財研究所美術部資料室長、44(1969)年4月美術部長となったが、一貫して研究資料の充実に尽瘁し、また、美術部の運営と発展に不撓の努力を続けた。
 専門の工芸史の分野では研究を凝集した「日本の工芸」の著があり、特に古陶磁を中心とする意匠と文様に関して新分野の開拓につとめ、古九谷、古伊万里、仁清等の色絵から中国陶磁に及ぶ別項の如き多数の論考が見られる。開国百年記念事業会編「明治文化史美術編」に執筆した「明治の工芸」は、従来等閑視されていた時代の工芸史に体系的整理を加えた画期的な労作であったが、これを機に伝統的技法による現代陶芸に研究領域を拡げ、「板谷波山」などの作家論を著わすとともに、29(1954)年以来日本伝統工芸展の審査委員として、現代工芸の発展と技術者の育成に尽力するに至った。35(1960)年11月には東京都文化財保護審議会専門委員となって都文化財の調査指定に協力し、36(1961)年4月より43(1968)年6月まで文化財保護委員会事務局に併任、45(1970)年3月文化庁文化財保護審議会臨時専門委員、47(1972)年7月には専門委員として、無形文化財の調査指定、保護活用にあたり、49(1974)年12月からは通産省伝統的工芸品産業審議会専門委員として、伝統産業の育成繁栄に指導的役割を果した。
 また23年(1948)以来順次早稲田大学、慶應大学、東京芸術大学、武蔵野美術大学、工学院大学、東京造形大学等諸大学の非常勤講師として、48年(1973)4月からは共立女子大学家政学部教授として、永年にわたり広く後進の指導育成にもつとめた。
没後、勲四等旭日小綬章の追贈を受けた。
主要編著書目録
書名 出版社 年月
古九谷(陶器全集8) 平凡社 33.7
日本の工芸 吉川弘文館 38.11
板谷波山伝(吉沢忠共著) 茨城県 42.4
原色日本の美術19・陶芸(田中作太郎共編) 小学館 42.10
板谷波山(出光美術館選書)美術出版社 44.6
明治の工芸(日本の美術41) 至文堂 44.9
赤絵(日本の美術71) 至文堂 47.4
陶器講座11日本5江戸前期2 雄山閣 47.12
仁清(陶磁大系) 平凡社 49.3
九谷焼(日本の美術103) 至文堂 49.12
板谷波山(近代の美術33) 至文堂 51.3
現代の陶芸 1.2.5.8.9 講談社
主要論文目録
巻 年月
古九谷色絵花鳥文大平鉢解説 美術研究 44号 10.8
能作生塔 解説 美術研究 46号 10.10
古九谷花鳥文中皿 解説 美術研究 49号 11.1
孔雀文磬 解説 美術研究 49号 11.1
長尾氏蔵五鈷鈴解 美術研究 52号 11.4
色鍋鳥芙蓉菊文様大皿 美術研究 62号 12.2
所謂南蛮唐草の一種について 美術研究 159号 26.2
織部銹絵角皿 ミュージアム 5号 26.8
九谷焼 ミュージアム 20号 27.11
紫外線による古陶磁の実験 美術研究 168号 28.2
中国古陶磁の文様 ミュージアム 25号 28.5
高麗青磁と青磁象嵌の文様について 美術研究 175号 29.5
高麗青磁と象嵌鳳凰雲鶴文小箱 解説 美術研究 175号 29.5
古九谷意匠瞥見 陶説 18号 29.9
光学的方法による古美術品の研究―工芸 東京国立文化財研究所 30.3
古九谷意匠の一考察 美術研究 180号 30.3
高麗象嵌青磁の模様(世界陶磁全集13 朝鮮) 河出書房 30.10
嘉靖万暦の模様(世界陶磁全集11元明) 河出書房 30.12
高麗青磁透彫筥 大和文華 19号 31.3
織部焼の意匠 美術研究 185号 31.3
明治の工芸(明治文化史美術篇) 開国百年紀念事業会 31.3
再興九谷および九谷系(世界陶磁全集6 江戸下) 河出書房 31.5
清朝陶磁の画題(世界陶磁全集12清朝) 河出書房 31.8
明治期窯業と宮川香山 美術研究189号 31.11
江戸時代の工芸上・下(日本文化史大系) 小学館 32.5
青白磁水注 大和文華 27号 33.9
古瀬戸の文様 美術研究 201号 33.11
法花茄紫地牡丹孔雀文壺 大和文華 31号 34.1
柿右衛門・古伊万里・鍋島の文様 陶説 74号 34.5
いわゆる祥瑞丸文装飾のある古九谷について 美術研究 207号 34.11
明治・大正期の陶芸(日本美術大系) 講談社 35.1
仁清作色絵罌粟文茶壺 ミュージアム 111号 35.6
安土桃山時代―現代の陶芸(日本美術史下) 美術出版社 35.12
日本・東洋の陶芸(玉川百科大辞典) 誠文堂新光社 36.5
仁清意匠の一考察 美術研究 216号 36.5
伝統工芸と民芸(世界美術全集11(日本近代) 角川書店 36.9
染付の文様 ミュージアム 126号 36.9
工芸と意匠(世界美術全集5 日本平安2) 角川書店 37.1
嘉靖襴手瓶の意匠 美術研究所 223号 37.7
呉須赤絵の蓮と牡丹の模様 ミュージアム 138号 37.9
青白磁童子模様瓶について 美術研究 229号 38.7
いわゆる高台寺蒔絵の一硯箱と高台寺の蒔絵 美術研究 235号 39.7
近世の工芸(世界美術大系日本美術近世) 講談社 39.7
織部焼の意匠 日本美術工芸 320号 40.5
明治後期陶磁工芸の一動向 美術研究 240号 40.5
古九谷 月刊文化財 24号 40.9
桃山のデザイン(世界美術全集8 日本桃山) 角川書店 40.10
平安の工芸意匠 日本美術工芸 326号 40.11
古伊万里色絵婦女図壺の一作品 美術研究 246号 41.5
明治期の陶芸 ミュージアム 203号 43.2
仁和寺蔵宝相華蒔絵宝珠箱の文様について 美術研究 256号 43.3
明治末大正初期の陶芸 美術研究 261号 44.12
江戸時代陶芸の流れ ミュージアム 235号 45.10
明治百年の古九谷研究 (古九谷) 集英社 46.7
丸文のある古九谷の二作品 美術研究 275号 46.11
古九谷色絵蓮にかわせみ図解説 国華 968号 49.5
「仁清」京文化を土で焼出した名匠 歴史と人物 42号 50.2

出 典:『日本美術年鑑』昭和52年版(291-293頁)
登録日:2014年04月14日
更新日:2023年09月13日 (更新履歴)

引用の際は、クレジットを明記ください。
例)「中川千咲」『日本美術年鑑』昭和52年版(291-293頁)
例)「中川千咲 日本美術年鑑所載物故者記事」(東京文化財研究所)https://www.tobunken.go.jp/materials/bukko/9755.html(閲覧日 2024-03-29)

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