隈元謙次郎

没年月日:1978/01/25
分野:, (学)

 美術史家隈元謙次郎は、1月25日前立腺がんのため、東京目黒の国立第二病院で死去した。享年74。明治36年(癸卯)1月28日鹿児島市に生れ、第七高等学校造士館理科乙類を経て、昭和3年東京帝国大学文学部美学美術史学科を卒業、大学院を同6年3月修了した。昭和7年6月当所の前身である、帝国美術院附属美術研究所に入り、日本近代美術の研究に従事した。以来没するまでの約半世紀近くを、専ら近代美術全般の調査研究と、研究所における基礎資料の収集整備に尽瘁した。研究面では昭和14年3月「明治初期来朝イタリア美術家とその功績」によって、前年イタリア政府中亜極東協会により設定された第一回レオナルド・ダ・ヴィンチ賞を受賞し、学界に一躍その存在を重からしめた。そのほか研究所機関誌の「美術研究」誌上に、逐次多数の精緻にして実証的論文を発表したが、これは昭和39年修正され、『近代日本美術の研究』として上梓された。この本に収録されるもの以外では、黒田清輝、浅井忠、藤島武二等の評伝、『黒田清輝日記』『十三松堂日記』等の編集がある。晩年は岡倉天心の研究をすすめ、氏を中心に大規模にして完璧を期した天心全集の刊行が企画されたが、その出版を見ずして了った。そのほか、研究所事業の一環として、昭和10年以来「日本美術年鑑」の刊行をつづけているが、その編集の指導に当り、その出版は美術界に寄与するところが少なくない。一方、その指導の下に整備された研究所の近代美術関係資料は、他に類をみず研究者をはじめ、その恩恵に浴するものは多い。以上研究執筆以外の美術行政面においても、東京国立近代美術館運営委員(昭27.9.1~41.3.31)、同評議員(昭46.3.1~53.1.25)として運営、購入等にあたり、東京都美術館においても同様、運営審議会委員、(昭40.4.1~52.3.31)これ以前は参與会委員として尽力した。また文化財保護審議会臨時専門委員として、近代美術の指定審議にあたり、文化勲章授賞選考委員(昭和50年度)もつとめ、或いはまた財団法人博物館明治村評議員(昭37.12~)として、その運営及び作品の収集に参与した。没後、明治美術の史的研究その他の功績によって第4回明治村賞が授与された。教育方面では、研究所在職中に女子美術大学の講壇にたち、退職後は、東京家政大学教授(昭41.4.1~49.3.31)として教鞭をとった。このように美術史学者としての広汎な活動がみられるが、とりわけ研究面での近代美術におけるパイオニヤ的その仕事は、未だ大筋においてこれを凌駕するとみられるものはなく、近代美術の研究にたずさわる者は、必ず一度は氏の研究を繙かねばならないのが常である。人柄はまた常に温厚篤実にして、時に磊落であり、酒を愛し薔薇づくりを楽しんだ。
主要著作目録
書名 発行所 発行年
明治初期来朝伊太利亜美術家の研究 三省堂 昭和15年
ヴァザリ美術家伝(1)-共訳 青木書店 昭和18年
ヴァザリルネサンス美術家伝(1)-共訳 萬里閣 昭和23年
黒田清輝素描集 国立博物館 昭和24年
近代の洋画(上)―近代日本美術全集第3巻 東都文化交易 昭和28年
近代の洋画(下)―同第4巻 同 昭和29年
黒田清輝作品集 東京国立文化財研究所 昭和29年
藤島武二 美術出版社 昭和30年
黒田清輝名画集―文部省幻灯画第20集 文部省 昭和31年
明治・大正・昭和「見る美術史」 アトリエ社 昭和31年
黒田清輝―日本近代絵画全集第2巻 講談社 昭和37年
浅井忠―同第1巻 同 昭和38年
菱田春草の名作 長野県下伊那教育会 昭和37年
浅井忠―日本近代絵画全集 講談社 昭和38年
黒田清輝日記 中央公論美術出版 昭和41年
黒田清輝 日本経済新聞社 昭和41年
明治-日本絵画館9(共著) 講談社 昭和45年
浅井忠 日本経済新聞社 昭和45年
黒田清輝―近代の美術6 至文堂 昭和46年
黒田清輝―日本の名画30 講談社 昭和47年
浅井忠・黒田清輝―現代日本美術全集(共著) 集英社 昭和48年
岡倉天心全集―全8巻、別巻(共編) 平凡社 昭和55年

主要論文目録
題名 図書名 発行年
明治以降日本美術の発達 日本諸学振興委員会報告第6篇 昭和15年
岡田三郎助伝(共著) 画人岡田三郎助(美術出版社) 昭和17年
明治洋画史上に於ける二潮流 美術研究叢書(2)(白鳳書院) 昭和22年
明治前期の西洋画 世界美術全集(25)(平凡社) 昭和26年
明治の美術 明治文化史第1巻(開国100年記念事業会) 昭和30年
下村觀山 現代日本美術全集(1)(角川書店) 昭和30年
明治期の洋画 同(2)(同) 昭和30年
黒田清輝 同(2)(同) 昭和30年
満谷國四郎 同(4)(同) 昭和30年
明治時代の絵画・彫刻 図説日本文化史大系(11)(小学館) 昭和31年
橋本雅邦 橋本雅邦名作展図録(東京国立博物館) 昭和32年
南薫造画伯の作品 南薫造画集(同刊行会) 昭和32年
佐伯祐三論 佐伯祐三(美術出版社) 昭和33年
藤島武二 近代の洋画人(中央公論美術出版) 昭和34年
明治期の絵画 日本美術全史(下)(美術出版社) 昭和35年
近代洋画の発足 世界名画全集(22)(平凡社) 昭和35年
戦時体制に組みこまれた絵画 同(24)(同) 昭和35年
Intellectual and Aesthetic Current Japan,1775-1905 The Prubcupal Journal of World Hi
story Vol.VI(Baconmiere Neuchatel) 昭和35年
和田英作の横顔 和田英作遺作展図録(大塚巧芸社) 昭和36年
藤島武二の人と作品 世界名画全集続巻(6)(平凡社) 昭和36年
佐伯祐三の人と作品 同(同) 昭和36年
文明開化時代、紫派と脂派 世界美術全集(11)(角川書店) 昭和36年
黒田清輝の生涯と作品 世界名画全集続巻(4)(平凡社) 昭和37年
黒田清輝湖畔図(解説) 国華百粋(5)(毎日新聞社) 昭和22年高橋由一筆鮭図(解説) 近代日本美術資料(1)(国立博物館) 昭和23年
田崎草雲筆秋山晩暉(解説)ほか 同(2)(同) 昭和24年
淺井忠筆収穫(解説)ほか 同(3)(同) 昭和26年
淺井忠筆洗濯場(解説)ほか 世界美術全集(11)(角川書店) 昭和36年
下村觀山筆維摩黙然(解説)ほか 集古銘鑑(大倉文化財団) 昭和37年
Yosai Kikuchi“Night encountor at Horikawa”ほか(解説) Catalogue of Contemporary Japanes
e Art(Kokusai Bunka Shinkokai) 昭和35年
Kano Hogai “HiboKnanon”ほか(解説) Art Treasures of Japan Vol.2(Kokusai Bunka Shink
okai) 昭和35年
シスレー村落ほか(解説) 西洋美術名作集(東京朝日新聞社) 昭和23年
黒田清輝ほか 世界歴史辞典(平凡社) 昭和26-30年
青木繁ほか 世界美術大辞典(河出書房) 昭和29-31年
石川光明ほか 日本歴史大辞典(河出書房) 昭和31-35年
淺井忠ほか 世界大百科事典(平凡社) 昭和30-33年
油絵ほか 日本文化史辞典(朝倉書店) 昭和37年

定期刊行物
高橋由一の生涯と作品 美術研究 59 昭和11年
本邦洋画発達資料展観 美術研究 60 昭和11年
ヴァザーリ「レオナルド・ダ・ヴィンチ」(訳) コギト 52 昭和11年
満谷國四郎遺作展覧会 美術研究 64 昭和12年
ラグーザに就て 美術研究 68 昭和12年
川上冬崖と洋画風 美術研究 79 昭和13年
明治以降美術の変遷 文部時報 635-7 昭和13年
黒田清輝と日新戦役 美術研究 88 昭和14年
エドアルド・キョソーネに就て 美術研究 91・92 昭和14年
アントニオ・フォンタネージに就て 美術研究 94 昭和14年
カッペレッティ及びサン・ジョヴァンニに就て 美術研究 96 昭和14年
滞仏中の黒田清輝 美術研究 101-2 昭和15年
Contemporary Painting of Western Style in Japan Bullettin of Eastern Art.No.12 昭和15

昭和15年美術界概観 日本美術年鑑 昭和16年
近時発見の帝王図 美術研究 119 昭和16年
黒田清輝初期の作品 造型芸術 3ノ6 昭和16年
黒田清輝中期の業績と作品 美術研究 113・115・118 昭和16年
黒田清輝後期の業績と作品 美術研究 130・132・133 昭和18年
速水御舟の素描 アトリエ 241・243 昭和21年
黒田清輝初期の風景画 アトリエ 250 昭和22年
黒田清輝と藤島武二 みづゑ 504 昭和22年
高橋由一 博物館ニュース 27 昭和24年
近代日本美術の系譜(洋風画) 博物館ニュース 36-39 昭和25年
高橋由一の風景画 美術研究 160 昭和26年
菱田春草「落葉図屏風」 ミューゼアム 9 昭和26年
白樺派と美術界 明治大正文学研究 5 昭和26年
日本洋画発達史 アトリエ 306-8 昭和27年
美校の二教授 美術手帖 52 昭和27年
今村紫紅の芸術 ミューゼアム 21 昭和27年
自昭和21年至同25年美術界の展望(洋画、美術行政) 日本美術年鑑 昭和27年
近代美術にあらわれた人間観 ミューゼアム 30 昭和28年
藤島武二 中央公論 772 昭和28年
昭和27年美術界概観(現代日本画、彫刻、建築) 日本美術年鑑 昭和28年
黒田清輝作品補遺 美術研究 177 昭和29年
近代リアリズムの出発 国立近代美術館ニュース 5 昭和30年
昭和28年美術界概観(現代建築) 日本美術年鑑 昭和29年
狩野芳崖晩期の作品 美術研究 184 昭和31年
明治中期の洋画(一)―明治美術会を中心として 美術研究 188 昭和31年
菱田春草「黒き猫図」 国華 775 昭和31年
五姓田義松の人と作品 ミューゼアム 65 昭和31年
安井曾太郎追悼 博物館ニュース 104 昭和31年
日本に於ける近代美術館設立運動史(1―25) 国立近代美術館ニュース 25-93 昭和31-37年
The Flowering of the Traditional Art of Nippon Asia Scene No.5 昭和31年
昭和29年美術界概観(現代建築) 日本美術年鑑 昭和31年
明治中期の洋画(二)―白馬会を中心として 美術研究 192 昭和32年
高橋由一筆三宅康直像(解説) 国華 786 昭和32年
横山大観の人と芸術 萠春 40 昭和32年
近藤浩一路の作品 萠春 42 昭和32年
橋本雅邦の人と作品 萠春 47 昭和32年
昭和30年代の日本画と朦朧派 淡交特集 126 昭和33年
昭和31年美術界概観(洋画) 日本美術年鑑 昭和33年
明治初期の洋画 美術研究 206 昭和34年
淺井忠筆グレーの秋 ミューゼアム 101 昭和34年
華岳の生涯 萠春 66 昭和34年
追悼和田英作 美術手帖 154 昭和34年
真贋の話 国立近代美術館ニュース 60 昭和34年
昭和32年美術界概観(現代美術、洋画) 日本美術年鑑 昭和34年
五姓田義松に就て 美術研究 213 昭和35年
小杉放庵の人と作品 萠春 80 昭和35年
淺井忠水彩画展 みづゑ 658 昭和35年
青木繁の「旧約物語」挿絵について 美術研究 217 昭和36年
岡倉天心略年譜 国華 335 昭和36年
ブレハの黒田清輝 みづゑ 672 昭和36年
絵画史上の大きな足跡―黒田清輝展 毎日新聞 昭和36年2月4日
日本人独特の油絵を樹立―藤島武二展 毎日新聞 昭和36年11月6日
チャールズ・ワーグマンとその周辺 神奈川文化 8ノ8 昭和37年
安井曾太郎「金蓉」ほか(美の美、解説) 日本経済新聞 昭和31―37年
黒田清輝―わが郷土の名家(1) 萠春 128 昭和39年
「朝妝」をめぐる裸体画の問題―近代日本の裸体画の受けとり方 現代の眼 126 昭和40年
山本芳翠 美術研究 239 昭和40年
原撫松「画家ヘンリーの像」<美の美> 日本経済新聞 昭和42年1月27日
藤島武二<近代日本美術家の文献紹介> 現代の眼 152 昭和42年
山本芳翠「臥裸婦」<美の美> 日本経済新聞 昭和42年7月4日
ラグーザ「日本の大工」<美の美> 日本経済新聞 昭和42年6月9日
明治・大正洋画史 三彩増刊 234 昭和43年
淺井忠「グレーの秋」<美の美> 日本経済新聞 昭和44年11月7日
淺井忠「武士の山狩」<美の美> 日本経済新聞 昭和44年11月24日
高橋由一筆・日蓮上人像―新発見資料 三彩 340 昭和50年
高橋由一筆・日蓮上人像(図版解説) 美術研究 299 昭和50年
松岡寿追想 三彩 330 昭和50年
ハーバート大学ホートン・ライブラリー蔵アーネスト・フェノロサ資料(1)~(16)(隈元編村形明子訳) 三彩 327、
329、331、334、339、341、343、345、349、351、353 昭和50年~昭和52年

出 典:『日本美術年鑑』昭和54年版(271-274頁)
登録日:2014年04月14日
更新日:2015年12月14日 (更新履歴)
『日本美術年鑑』に収録されている以下の記事にも「隈元謙次郎」が含まれます。
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