小川知二

没年月日:2015/03/02
分野:, (学)
読み:おがわともじ

 元東京学芸大学教授で美術史研究者の小川知二氏は、3月2日死去した。享年71。
 1943(昭和18)年8月30日、神奈川県横浜市に生まれる(本籍は茨城県牛久市)。京都大学文学部哲学科美学美術史専修を修了し、茨城県立歴史館に勤務。日本中世絵画史、とくに常陸画壇史や雪村周継の研究において優れた業績を残した。小川による基礎資料の真摯な調査、画家の基準作を丹念に追求する精緻な研究は、雪村をはじめ、林十江、立原杏所、佐竹義人などによる常陸画壇の軌跡に新たな光をあてるものとなった。
 茨城県立歴史館では、雪村の大規模な企画展として「新規会館記念特別展 雪村―常陸からの出発(たびだち)―」(1992年)を担当した。また、同館『茨城県立歴史館報』に「近世水戸画檀の形成(上)(中の一)(中の二)」「『日乗上人日記』に登場する画家たち」を連載し、祥啓、雪村とその周辺画家を水戸美術の黎明期に位置づけ、水戸藩成立後の狩野派絵師の活動や、徳川光圀が招いた東皐心越などの動向など、貴重な基礎資料を提示した。
 1995年より東京学芸大学教育学部教授となり、教育活動に力を注いだ。その間、2002年に千葉市立美術館など4館で開催された特別展「雪村展:戦国時代のスーパーエキセントリック」に特別学芸協力を行い、「雪村の造型感覚―初期の作品から「風濤図」に至るまで」(『東京学芸大学造形芸術学・演劇学講座研究紀要』1、1996年)、「雪村の作品の編年に関する問題点」(『国華』1242、1999年)などを発表し、2004年には『常陸時代の雪村』(中央公論美術出版)を刊行した。同著は先学の福井利吉郎赤澤英二の諸研究をふまえた雪村研究の集大成をなすものとなった。05年に同大学を定年にて退任する。
 小川はまた、「学芸員とは何だろう」(『MUSEOLOGY』16、1997年)において、学芸員の専門性について強調しているように、地域社会における博物館学芸員の役割について重要な提言を行った。とくに1970年代に「博物館問題研究会」において、わが国の博物館の歴史的・社会的位置づけに関する議論を深め、同研究会に「文化論学習会」を設立し、吉本隆明『共同幻想論』、丸山眞男『超国家主義の論理と心理』などをとりあげ、人文科学系博物館における歴史観・芸術観の課題について論じた。熱心な教育普及活動によって地域においても人望篤く、また学生や後継の研究者への細やかな配慮によって尊敬をあつめた。芸術を探求した小川の真摯な姿勢は、祖父小川芋銭の血を受け継ぐものであったのかもしれない。
 主要な編著書・論文は下記の通りである。
編著書
『奇想のメッセージ 林十江』(日本放送出版協会、1993年)
『江戸名作画帖全集―探幽・守景・一蝶:狩野派』4(安村敏信・小川編、駸々堂出版、1994年)
『常陸時代の雪村』(中央公論美術出版、2004年)
『もっと知りたい雪村―生涯と作品―』(東京美術、2007年)
「常陸画檀史断章――佐竹義人の登場と伝説、そして忘却へ――」(吉成英文編『常陸の社会と文化』ぺりかん社、2007年)
論文
「林十江、立原杏所とその作品」(『古美術』61、1982年)
「「蝦蟇図」の作者林十江」(『国華』1058、1982年)
「立原杏所筆 夏天急雨図」(『国華』1081、1985年)
「立原杏所の「北越山水図巻」と「写生画巻」について」(『国華』1103、1987年)
「近世水戸画檀の形成(上)」同「(中の一)」同「(中の二)」(『茨城県立歴史館報』12・13・16、1986年・1989年)
「林十江筆 十二支図巻」(『国華』1120、1989年)
「『日乗上人日記』に登場する画家たち」(『茨城県立歴史館報』19、1992年)
「立原杏所の『袋田瀑布』について―再出現の作品紹介を兼ねて―」(『東京学芸大学紀要 第2部門 人文科学』45、1994年)
「雪村の造型感覚―初期の作品から「風濤図」に至るまで」(『東京学芸大学造形芸術学・演劇学講座研究紀要』1、1996年)
「学芸員とは何だろう」(『Museology(実践女子大学)』16、1997年)
「林十江の造形意識―「蝦蟇図」再考」(『東京学芸大学紀要 第2部門 人文科学』49、1998年)
「一瞬の造形表現―林十江筆「柳燕図」の紹介を兼ねて」(『東京学芸大学造形芸術学・演劇学講座研究紀要』2、1998年)
「雪村の作品の編年に関する問題点」(『国華』1242、1999年)
「雪村筆 葛花、竹に蟹図」(『国華』1242、1999年)
「岡倉天心と雪村」(『東京学芸大学造形芸術学・演劇学講座研究紀要』3、2001年)
「雪村の画論『説門弟資伝』について」(『東京学芸大学紀要 第2部門 人文科学』55、2004年)
「雪村は雪舟に傾ける周文風なり―岡倉天心の言説を巡って―」(『五浦論叢』14、2007年)
「奥原晴湖の生涯と作品~「繍水草堂」の時代を中心に~」(『奥原晴湖展』古河歴史博物館、2010年)
「林十江筆 昇龍図」(『国華』1390、2011年)
「雪村周継「布袋図」と「山水図」(『聚美』2、2012年)
「近世の水戸画檀とは」(茨城県立歴史館『近世水戸の画人 奇才・十江と粋人・喬展』、2014年)
「谷文晁、酒井抱一、菅原洞斎の雪村崇拝―雪村の画論『説門弟資云』の謎をめぐって―」(『特別展 雪村 奇想の誕生』東京藝術大学大学美術館、MIHO MUSEUM、2017年)

出 典:『日本美術年鑑』平成28年版(530-531頁)
登録日:2018年10月11日
更新日:2023年09月13日 (更新履歴)

引用の際は、クレジットを明記ください。
例)「小川知二」『日本美術年鑑』平成28年版(530-531頁)
例)「小川知二 日本美術年鑑所載物故者記事」(東京文化財研究所)https://www.tobunken.go.jp/materials/bukko/808991.html(閲覧日 2024-04-20)
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