西和夫

没年月日:2015/01/03
分野:, (学)
読み:にしかずお

 建築史家で神奈川大学名誉教授の西和夫は1月3日、東京都内にて死去した。享年76。
 1938(昭和13)年7月1日、東京都に生まれる。武蔵高等学校を卒業後、早稲田大学理工学部建築学科に入学。62年に卒業後、東京工業大学大学院に進学して藤岡通夫に師事、67年に同博士課程を「近世日本における建築積算技術の研究」で学位取得修了。同年日本工業大学助教授。77年神奈川大学助教授、78年より2009(平成21)年まで同教授。
 近世日本建築史を専門とし、大学院在籍中から大工文書の解読等に基づいて江戸幕府による造営に関わる生産組織の実態を明らかにする論考を精力的に発表した。一方、書院建築における障壁画への着目に始まって、美術史と建築史を架橋する研究も早くから手掛けている。さらに、81年に神奈川大学に日本常民文化研究所が招致・設立されると、その中心的メンバーであった宮田登や網野善彦とも協力し、芸能に関係する建築や絵図にみられる建築などにも研究対象を拡げた。83年、「日本近世建築技術史に関する一連の研究」で日本建築学会賞(論文)受賞。
 学位論文をもとにした『江戸建築と本途帳』(鹿島研究所出版会、1974年)や『工匠たちの知恵と工夫』(彰国社、1980年)などで研究成果をわかりやすく語るとともに、『日本建築のかたち』(彰国社、1983年)や『図解古建築入門 日本建築はどう造られているか』(彰国社、1990年)などで日本建築の構造をビジュアルに説いたことは入門者にも大きな助けとなった。『日本建築のかたち』は『What is JAPANESE ARCHITECTURE』(Kodansha International、2012年)として英訳され、海外の人々の日本建築への理解の増進にも貢献している。
 研究のもう一つの柱が既に失われた建造物の復原研究で、これはやがて史跡等における建造物の実物大復原として結実した。西が学術的検討を主導した代表的成果としては、足利学校、佐賀城本丸御殿、出島和蘭商館跡などを挙げることができる。
 99年より2年間にわたり建築史学会会長、03年より09年まで文化審議会委員を務めたほか、各地で文化財保護指導委員等として、文化遺産の保存と活用、歴史遺産を活かした町づくり等に尽力した。
 最晩年は松江城調査研究委員会の委員長として粘り強い調査から天守の建立年を示す祈祷札の発見を経て国宝指定への道筋を付けたが、その答申をわずか4か月後に控えての急逝であった。
 編著作は多数に上り、上記以外の主な著書に『わが数寄なる桂離宮』(彰国社、1985年)、『建築史研究の新視点一~三』(中央公論美術出版、1999~2001年)、『海・建築・日本人』(日本放送出版協会、2002年)、『建築史から何が見えるか 日本文化の美と心』(彰国社、2009年)などがある。

出 典:『日本美術年鑑』平成28年版(525頁)
登録日:2018年10月11日
更新日:2023年09月13日 (更新履歴)

引用の際は、クレジットを明記ください。
例)「西和夫」『日本美術年鑑』平成28年版(525頁)
例)「西和夫 日本美術年鑑所載物故者記事」(東京文化財研究所)https://www.tobunken.go.jp/materials/bukko/808946.html(閲覧日 2024-04-18)

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