一原有徳

没年月日:2010/10/01
分野:, (版)
読み:いちはらありのり

 モノタイプの手法で知られる版画家の一原有徳は10月1日、老衰のため死去した。享年100。1910(明治43)年8月23日、徳島県那賀郡平島村(現、阿南市那賀川町)に生まれる。1913(大正2)年、家族とともに北海道虻田郡真狩村阿波団体(現、真狩村富里)に移住。23年、小樽に移住し、株式会社北海道通信社に入社。同年から小樽実修商科学校(夜間)に通学。そこで書道教師だった小林露竹(俳号、露石)の句会に参加し、俳句創作のきっかけとなる。1927(昭和2)年、逓信省小樽貯金支局(現、小樽貯金事務センター)に入局し、以後43年間勤務。この頃から本格的に俳句創作に携わり、句誌に投句を始める。また、31年には休暇を利用しての登山を始める。44年、月寒(札幌)の大砲小隊に入隊。翌年、広島へ転属。その後、小樽の第五船舶輸送司令部暗号班に配属されるも、終戦によって9月に除隊。51年、小樽貯金支局に勤務していた画家須田三代治から油彩画の道具を譲り受け、指導を受ける。同年10月に第5回小樽市美術展に出品し初入選。翌年の第6回同展では北海道新聞社賞、翌々年の第7回同展で文化クラブ賞。54年、須田の友人である国松登の指導のもと、第9回全道展で「峡」が初入選。その後、第12回まで油彩画を出品し、入選を続ける。この頃、パレット代わりにしていた石版石に残ったペインティングナイフの痕跡に注目し、モノタイプ版画の制作を始める。モノタイプ版画は、石版などの上に均一に延ばしたインクをナイフなどで削ぎ落とし、版画紙に転写するもので、方法としては版画に類するものの、一度しか印刷することができないという点で大きく異なる。58年、モノタイプの手法を用いた年賀状が国松の眼にとまり、第32回国画会展にモノタイプ作品を出品。「RON」、「SRO」が初入選を果たす。このことがきっかけで、国画会の版画家河野薫から版画についての基礎知識を教わり、金属凹版作品、いわゆるエディション・シリーズの制作にも本格的に取りかかる。翌59年、第27回日本版画協会展に出品した「轉」が初入選。この作品がアメリカのコレクターであるフランク・シャーマンに買い上げられたことで、当時の神奈川県立近代美術館副館長土方定一の眼にとまる。60年には、土方の推薦によって、世界を巡回した「現代日本の版画展」(神奈川県立近代美術館主催)に「RON」を含む計9作品が出展される。6月には東京画廊において初の個展を開催。その後は、勤務先の仕事の傍ら、北海道を中心に作品を発表する。この間、モノタイプや金属凹版を応用し、糸や金網、機械部品を直接プレスしたり、あるいは、丸鋸の刃やトカゲの皮、するめをそのまま版として用たりするなど、様々な実験を行っている。定年退職後の71年、下山中に遭難し、右大腿骨骨折。その後、3年にわたって三度の手術を受けることになる。退院後の76年、札幌にあるNDA画廊の長谷川洋行から青画廊の青木彪を紹介され、再び東京での個展を開催。これに先立って、『みづゑ』10月号に谷川晃一との対談が掲載されたこともあって、ふたたび脚光を浴びることとなる。翌年、現代版画センター主催の「現代と声」展に選ばれ、企画者である北川フラムの知遇を得る。北川フラムは、その後もいくつかの個展を企画し、89年には『ICHIHARA 一原有徳作品集』を出版する。79年、第2回北海道現代美術展に選定出品された「KIH(a)」で優秀賞。同年、一原が勤務していた貯金局の建物内に市立小樽美術館が開館。また、版画紙を複数枚つなぎ合わせたり、それを円筒形にして立体的な構造物をつくる手法の第一作となる「SON・ZON」が制作されたのもこの年である。この時期には、金属を熱して焼き付ける「Branding」シリーズ、ステンレスの鏡面を歪ませた「SUM」シリーズなどといったオブジェ作品を多数制作。また、83年「無題」(川崎市営競輪場外壁)、84年「炎」(小樽花園公園)、「炎II」(銭函駅前)とモニュメント作品も制作している。その後も多産な制作活動をつづけ、各地で精力的に個展を開く。主な個展は、88年「現代版画の鬼才 一原有徳の世界」展(神奈川県立近代美術館別館)、1997(平成9)年「イチハラ・ステンレス・オブジェ」(市立小樽美術館)、98年「一原有徳・版の世界 生成するマチエール」(徳島県立近代美術館、北海道立近代美術館)、2002年「所蔵作品お披露目展その四・一原有徳展」(武蔵野市立吉祥寺美術館)、12年「追悼・一原有徳 ヒラケゴマ」(同)など。また、主な受賞は、1981年、第4回北海道現代美術展に選定出品された「SON・ZON」によって北海道立近代美術館賞。90年、北海道文化賞受賞。96年、地域文化功労者の文部大臣表彰。2001年、第33回北海道功労賞。11年、市立小樽美術館の三階に一原有徳記念ホールが開設され、同年10月に「没後一年 一原有徳 大版モノタイプ~終わりなき版への挑戦」展が開催された。

出 典:『日本美術年鑑』平成23年版(449-450頁)
登録日:2014年10月27日
更新日:2023年09月13日 (更新履歴)

引用の際は、クレジットを明記ください。
例)「一原有徳」『日本美術年鑑』平成23年版(449-450頁)
例)「一原有徳 日本美術年鑑所載物故者記事」(東京文化財研究所)https://www.tobunken.go.jp/materials/bukko/28511.html(閲覧日 2024-03-28)

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