柳沢信

没年月日:2008/06/02
分野:, (写)
読み:やなぎさわしん

 写真家の柳沢信は6月2日、喉頭癌のため鎌倉市内の病院で死去した。享年71。1936(昭和11)年8月23日東京市向島区(現、東京都墨田区)に生まれる。本来の読みは「まこと」。疎開先の埼玉県を経て、戦後神奈川県に転居、55年神奈川県立湘南高等学校を卒業、57年東京写真短期大学(現、東京工芸大学)技術科卒業。同年桑沢デザイン研究所に入学するが数ヶ月で中退し、以後フリーランスの写真家として活動する。58年ミノルタのPR誌『ロッコール』に初めての作品「題名のない青春」を発表、59年に立木義浩、笠貫節との三人展「ADLIB 3」(富士フォトサロン、東京)を開催。60年には「現代写真展1959」(国立近代美術館)に出品。61年結核が見つかり約一年半の療養生活を送る。復帰後はファッションや広告などの仕事を手がけるかたわら写真雑誌に作品を発表し、『カメラ毎日』に発表した「二つの町の対話」(1966年12月号)「竜飛」(1967年3月号)により67年第11回日本写真批評家協会賞新人賞を受賞。74年には「15人の写真家」展(東京国立近代美術館)に参加。79年に初の個展「都市の軌跡1965-70」(オリンパスギャラリー、東京)を開催、同年初の写真集『都市の軌跡』(朝日ソノラマ)刊行。以降、個展として「北陸紀行」(ミノルタフォトスペース、東京、1980年)、「柳沢信写真展」(CAMERA WORKS EXHIBITION、東京、1981年)、「写真・イタリア・柳沢信」(コニカプラザ、東京、1994年)、「写真に帰る」(クリエイションギャラリーG8およびガーディアン・ガーデン、東京、2001年)、「柳沢信写真展」(ときの忘れもの、東京、2008年)がある。また写真集として『北陸紀行』(現代日本写真全集 日本の心 第11巻、集英社、1981年)、『写真・柳沢信 1964―1986』(書肆山田、1990年)、『写真・イタリア』(モールユニットNo.3、モール、1994年)がある。他に「写真に帰る」展に際して写真雑誌に発表した作品を網羅的に収録した小冊子が刊行された。都会的な主題をめぐる初期から、次第に高度成長のなかで変化をとげつつあった地方にも関心を広げ、60年代から70年代にかけて写真雑誌に発表した日本各地をめぐる連作(68年『カメラ毎日』に連載の「新日本紀行」、72年『アサヒカメラ』に連載の「片隅の光景」など)において、旅の途上で出会った風景を独特の距離感と映像感覚でとらえる作風を確立。写真界の動向に左右されず、確かな写真技術に裏打ちされつつも、決して技巧に走らない作品は、独自の位置を占めるものとして評価された。93年には初の本格的な海外での撮影をかねたイタリアへの長期旅行に出るが、その途上、体調を崩して帰国。喉頭、食道に癌が見つかり手術を受け、療養生活の中で新たな撮影は中断されていた。死去後の2009年「写真・柳沢信」(JCIIフォトサロン、東京)が開催された。

出 典:『日本美術年鑑』平成21年版(433-434頁)
登録日:2014年10月27日
更新日:2023年09月13日 (更新履歴)

引用の際は、クレジットを明記ください。
例)「柳沢信」『日本美術年鑑』平成21年版(433-434頁)
例)「柳沢信 日本美術年鑑所載物故者記事」(東京文化財研究所)https://www.tobunken.go.jp/materials/bukko/28426.html(閲覧日 2024-03-29)

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