髙橋榮一

没年月日:2007/08/07
分野:, (学)

 西洋中世美術史研究者で早稲田大学名誉教授であった髙橋榮一は、8月7日、心不全のため東京都杉並区の病院で死去した。享年75。1932(昭和7)年2月5日、大分県杵築市に生まれる。56年早稲田大学第一文学部卒業、同大学院修士課程入学、その後同大学院博士課程、59年同大学文学部助手を経て、64年同学部専任講師、67年同学部助教授となり、74~2002(平成14)年の29年間にわたり同学部教授を務めた。98~2002年には同大学會津八一記念博物館長も兼務した。2002年3月に同大学を定年退職、同年4月に同大学名誉教授となった。学部・大学院学生時代にはロマネスク彫刻を中心とした研究を行い、12世紀ロマネスク着衣像の特色の一つである衣襞表現の多様な表現形式に着目し、装飾写本挿絵を参考にしながらその様式展開を明らかにした。大学院では西洋美術史家・板垣鷹穂に師事し、その後生涯を通じてビザンティン美術についての研究を深めた。千年の歴史を有するビザンティン帝国の美術は、西洋美術史の形成に大きな役割を果たしているにもかかわらず、波乱に満ちた帝国の状況と滅亡後の政治・宗教の激変により現存作例が少ないために、研究上の難題を宿命的に抱えている。髙橋の研究の基盤は数々の現地調査によって形成され、ギリシアなど地中海地域のみならず、ビザンティン美術の流れを汲むロシアや東欧スラブ諸国など広域をその対象としていた。地理的あるいは社会経済的にも孤絶した各地の美術は、日本ではもちろん、当時は西洋でも研究が十分に進められておらず、こうした分野に実践的な美術史研究の光をあてた功績は大きい。68年に早稲田大学ソ連・東欧美術調査隊隊長として渡欧、74~5年にはギリシア政府招聘研究員として現地に滞在、アトスをはじめ各地のビザンティン遺蹟の調査を行った。また80~81年にはギリシア・カストリアを対象として「ギリシア中世教会堂壁画調査」(早稲田大学の科研調査)を実施した。これらの調査研究活動は下記の公刊書籍等にまとめられている。

訳著R.マルタン『ギリシア(世界の建築)』(美術出版社、1967年)
共編著『ビザンティンの世界(世界の文化史蹟11)』(講談社、1969年)
編著『ローマ(世界彫刻美術全集5)』(座右宝刊行会、1976年)
編著『初期キリスト教・ビザンティン(週刊朝日百科36)』(朝日新聞社、1978年)
編著『ロシアの聖堂』(講談社、1980年)
編著『聖山アトス(世界の聖域13)』(講談社、1981年)
編著『ビザンティン美術(世界美術大全集 西洋編6)』(小学館、1999年)

髙橋は、現地で作品と真摯に向き合う研究スタイルを終始堅持し、後進の育成・指導においても尽力した。没後、早稲田大学美術史学会より遺稿集『ビザンティンへの船出』(2007年)が編集・刊行されている。

出 典:『日本美術年鑑』平成20年版(383-384頁)
登録日:2014年10月27日
更新日:2015年12月14日 (更新履歴)
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