杉山二郎

没年月日:2011/11/30
分野:, (学)

 美術史家の杉山二郎は11月30日、膵臓がんのために死去した。享年83。
 昭和3(1928)年9月14日、東京府に生まれる。54年東京大学美学美術史学科を卒業し、55年奈良国立文化財研究所美術工芸室に勤務した。この時期は、天平時代の美術を中心に研究していたが、一方で、正倉院御物などを通じて東西交渉史に強い関心を覚え、中央アジアの発掘、イランのサーサーン朝やパルティア朝の美術、ヘレニズムの東漸などに関わる種々の書物を読みふけり、これがその後の学問的関心の素地を作った。
 60年東京国立博物館学芸部に転じ、東洋課の東洋考古室長、西アジア・エジプト室長などを勤めた。『東京国立博物館図版目録 大谷探検隊将来品篇』の編集刊行(1971年)、『特別展観 東洋の古代ガラス―東西交渉史の視点から―』の開催(1978年)及び図録刊行(1980年)など、東洋美術や東洋考古に関する陳列品の収集、保管、展示、種々の展覧会の企画、運営に関わった。68年の東洋館開館に関わる諸事業にも携わった。
 この時期に、西アジアやシルクロード、中国などにおける現地調査を数多く行ったが、とくに東京大学のイラク・イラン遺跡調査団に参加し、現地の発掘調査を行ったことは貴重な経験となった。江上波夫を団長とする第一次遺跡調査では、65年とその翌年のテル・サラート遺跡第1号丘と第5号丘の発掘、タル・イ・ムシュキの発掘、ターク・イ・ブスターンの測量調査などに参加、深井晋司を団長とする第二次遺跡調査では、76年のハリメジャン遺跡の発掘、テル・サラート遺跡第1号丘、第2号丘の発掘に、78年のラメ・ザミーンの発掘調査、ターク・イ・ブスターンの測量調査に参加した。
 彼は多くの著作を残した。68年に刊行した『大仏建立』により、69年に毎日出版文化賞を受賞した。彼の関心は美術や考古にとどまらず、日本における人間性(ユマニテ)の育成の歴史、芸術よりみた日本精神史の研究にまで及んでおり、それに関わる多くの著作がこの時期に成っている。もともと医科志望であったためか、木下杢太郎や森鴎外など、医者であり、かつ文化や芸術の探究者に対して強い親和力をもつ。木下杢太郎を対象として、近代における日本人の人格形成のプロセスを追った『木下杢太郎 ユマニテの系譜』(1974年)はまさにその傾向を強く映している。
 博物館を退いた後、88年に長岡技術科学大学工学部教授、1991(平成3)年に佛教大学文学部教授、96年に国際仏教学大学院大学教授を勤め、2002年に退任した。
主な著書
『天平彫刻』日本の美術15(至文堂、1967年)
『大仏建立』(学生社、1968年)
『鑑真』東洋美術選書(三彩社、1971年)
『カラー大和路の魅力 寧楽』(写真:入江泰吉)(淡交社、1972年)
『木下杢太郎 ユマニテの系譜』(平凡社、1974年)
『正倉院 流沙と潮の香の秘密をさぐる』(ブレーン出版、1975年)
『西アジア南北記 沙漠の思想と造形』(瑠璃書房、1978年)
『オリエント考古美術誌 中東文化と日本』NHKブックス(日本放送出版協会、1981年)
『オリエントへの情熱 自叙伝的試み』(福武書店、1983年)
『仏像 仏教美術の源流』(柏書房、1984年)
『極楽浄土の起源 祖型としてのターク・イ・ブスターン洞』(筑摩書房、1984年)
『風鐸 歳時風物誌』(瑠璃書房、1985年)
『大仏以後』(学生社、1987年)
『遊民の系譜 ユーラシアの漂泊者たち』(青土社、1988年)
『真贋往来 文化論的視点から』(瑠璃書房、1990年)
『日本彫刻史研究法』(東京美術、1991年)
『遊牧と農耕の峡にて ユーラシア精神史考』(学生社、1993年)
『天平のペルシア人』(青土社、1998年)
『仏教文化の回廊』(青土社、1994年)
『大仏再興』(学生社、1999年)
『善光寺建立の謎 日本文化史の探究』(信濃毎日新聞社、2006年)
『仏像がきた道』(青土社、2010年)
『山紫水明綺譚 京洛の文学散歩』(冨山房インターナショナル、2010年)
共編著 
『批評日本史 政治的人間の系譜1 藤原鎌足』(梅原猛、田辺昭三と共著)(思索社、1972年)
『批評日本史 政治的人間の系譜4 織田信長』(会田雄次、原田伴彦と共著)(思索社、1972年)
『毒の文化史 新しきユマニテを求めて』(山崎幹夫と共著)(講談社、1981年)
『世界の大遺跡7 シルクロードの残映』(共著)(講談社、1988年)
翻訳
『考古学探検家スタイン伝』(J.ミルスキー著、共訳)(六興出版、1984年)
『長春眞人西遊記 王観堂静安先生校注本』(李志常、校註)(国際仏教学大学院大学、2002年)

出 典:『日本美術年鑑』平成24年版(440-441頁)
登録日:2015年12月14日
更新日:2015年12月14日 (更新履歴)
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