小杉一雄

没年月日:1998/10/22
分野:, (学)
読み:こすぎかずお

 美術史家で、早稲田大学名誉教授の小杉一雄は、10月22日午前10時35分、急性肺炎のため東京都杉並区の河北総合病院で死去した。享年90。明治41(1908)年6月4日画家小杉未醒(放庵)の子として東京都本郷区千駄木町に生まれた。昭和2(1937)年第一早稲田高等学院に入学、同4年4月早稲田大学文学部史学科東洋史学専攻入学、同7年4月早稲田大学大学院に進み、会津八一教授の指導を受けた。同14年4月から早稲田大学第二高等学院講師、同20年11月から早稲田大学文学部講師、同24年4月早稲田大学文学部教授になり、同54年3月定年退官。同年早稲田大学名誉教授となった。この間、同32年4月には「中国美術史に於ける伝統の研究」により、早稲田大学より文学博士号を授与された。同55年11月勲三等瑞宝章叙勲。平成5(1993)年2月紺綬褒章受章。  その美術史研究は中国美術における文様史と仏教美術史を根幹とした。文様史の研究においては自身が中国文化の実質的出発期と位置づける殷時代の文様に注目し、この時代の文様がほとんど爬虫類系のものであるという観点から、多様な文様を綿密な考証によって解読し、この文様の流れがその後の数千年におよぶ中国美術、ひいては日本美術の中に脈々として存続し同時にこれらを生育していったという状況を説き明かした。仏教美術の研究においては、南北朝時代の仏舎利信仰と仏塔、天蓋・仏龕・台座という荘厳具、肉身肖像、鬼神形などのテーマを柱としながら、関心を多岐におよぼし、壮大な仏教美術論を展開した。それは図像的考察と文献的考察によって独自の境地を開くものであった。この二つは学位取得論文を構成するもので、その後の論文も合わせて、文様史に関しては『中国文様史の研究―殷周時代爬虫文様展開の系譜』(昭和34年、新樹社)、仏教美術史に関しては『中国仏教美術史の研究』(昭和55年、新樹社)が刊行されている。  その他の主な著作として、『アジア美術のあらまし』(昭和27年、福村書店)、『日本の文様―起源と歴史』(昭和44年、社会思想社)、『中国の美術』(昭和49年、社会思想社)、『小杉一雄画文集』第一輯(昭和60年、自費出版)、『中国美術史―日本美術史の研究』(昭和61年、南雲社)、『小杉一雄画文集』第二輯(昭和63年、自費出版)、『奈良美術の系譜』(平成5年、平凡社)がある。妻瑪里子は美術史家(白梅短期大学名誉教授)、長男正太郎は早稲田大学教授(心理学)、次男小二郎は洋画家。 

出 典:『日本美術年鑑』平成11年版(425-426頁)
登録日:2014年04月14日
更新日:2023年09月25日 (更新履歴)

引用の際は、クレジットを明記ください。
例)「小杉一雄」『日本美術年鑑』平成11年版(425-426頁)
例)「小杉一雄 日本美術年鑑所載物故者記事」(東京文化財研究所)https://www.tobunken.go.jp/materials/bukko/10703.html(閲覧日 2024-04-25)

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