【1892.12.07】

十二月七日 水

 今朝ハ昨日の朝より一層雪が積で居た 十時少シ過ニ仕事部屋ニ行たら和郎が來て居て火のたき付方か甘くいかぬので薪を外ニ持ち出シテ割り方やらたき付の松の枝の片付方ナドやらかす オレ様ハ十一時頃から雪の景色ヲ論シかく 此の時盛ニ降る 長クハつゞかず 雪景色トハ仕事部屋の中から見たる景色也 晝後も少シ描ク 二時頃ニ霜菜が美天小僧ヲ使ニやつて客が有つてオレの處ニ來る事ハ出來ぬと云てよこす 和郎もやつて來た處で焼酎ヲやけつ腹ニ爲て飲ながら色事を盛ニ論じた 暗く爲たので蝋燭家主の處ニ取りニ行キ明ヲ付ケテ七時過迄仕事部屋ニ居る 此處ニあかりを付ケタハ今日が始也 夜珍らしく和郎來ず 今夜晩めしニ内へ歸つて見ると肉の殘りとまんぢうの切つ端の小さなのが一ツきり アヽつまらねへ浮世だ 仙人氣取も度が有ら 糞だといら立て見た處が仕方がネへ まんぢう(パン)を買ニ行のハ面倒臭い 有リツ丈のものを食てあとハお茶でごまかしそうつと其儘十一時頃ニ寝床ニ這入ル サアネむられぬ いろいろな考が出て來てとうとう三時頃迄くるしめられた 夕方曾我からの手紙が手ニ入る 頼でやつた事ヲ直ニやつて呉れたそうだ 仕合也


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