【1892.10.07】

十月七日 金

 今朝ハ一寸日が照た様ニして居たが矢張雨だ 朝めしも晝めしも晩めしも鞠の處で食た 晩めしニハ鞠の妹鞠屋も弟のジヨルジユもばあやもやつて來た 今朝ハ畫部屋ニ仕事ニ行 晝後ハ古巣と二時半か三時頃からこないだの様ニ森に茸さがしニ行た 此處のあめハ降たり止だり 森の中で大雨ヲ食ふ なニしろびしよぬれニぬれて居る草をふみ分ケ一寸さわると露がばらばらと落る木の枝をくゞつて歩く事だからたまらない 足だの股引だの水に突込だ同然さ 併し今日ハ脚絆を當て居たから此の前の時より餘程ましさ 六時頃ニ内へ歸て來た それから烟草屋ニ蝋燭を買ニ行たら烟草屋の娘とあのいやな下品な$リセツト$が居て外ニどこかの娘が居た 烟草屋の娘と$リセツト$變ニうそ笑た様ニして居た體 アヽなる程此間の窓からのぞいた時の事がなんとか云面白い話ニ爲て仕舞たかナと思ハさしむ こいつハ面白い物ニ爲れば一寸話の種だぞ 先づ拙者ハそしらぬ體ニてあいさつなど云ヒ茸狩ニ行た事など話して笑ふて別れたり 晝後の便で日本へ端書を一つ出す 夜食後$ジヨルジユ$と庭ニ出て川の上ニあかりを出すと云と魚が寄て來ると云が本當かなんだか蝋燭の火でためして見たり 魚が寄て來るどころかだめ あかりニも依るだろう魚ニも依るだろう 今日ハ市日で鞠屋が清泉驛ニ行たので小さなのこぎり一本とのみを一本買て來テ貰た 美天の親爺が小さなのみを一本副へて送て呉れタ


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