【1890.07.13】

七月十三日附 パリ發信 母宛 封書

 (前略)せんじつ$くぼ$の$ぼんちゆう$がどいつと申くにからちよつとあすびにきてをりましたからわたくしもいなかからでゝいきましてあいました $このゑ$さんといふおかたと$くぼ$とニにつぽんめしのごちそうをいたしました(中略)
 わたしはこのなつはこゝのいなかでくらそうとおもつてをります それについてハやどやにしじゆうをるのハなんだかおもしろくございませんからどこかひやくしようのうちをかりてそこにねとまりをしようとぞんじます さいわいわたしがやとつておりますてほんになるおんなのあねのうちがあいてをるとのことにてそれをみにいきましたらちいさなうちにてわたしがねとまりをしてをるだけにハもつてこいといふうちですからそれをかりようとぞんじます まづはいりくちニどまがございましてそれからだいとこがついてをります そのだいどころのすミニはしごがかゝつてをりまして二かいニのぼりますとそこがねべやでございます たつたそれだけのうちですからごくちんまりといたしてをります(中略)
 わたしがたのんで$てほん$にしてをるおんなといふのはとしはまだ十九か二十ぐらいだそうですがせいのたかいことまことにふしぎにてほんとうの$のつぽ$でございます わたしはようやくそのおんなのかたのたかさぐらいきりやございませんよ このせいようじんのなかでもちよつとめニたちますからにつぽんにでもいつたらそれこそめせものにでもなるだろうとぞんじますよ こんどハまづこれぎり めでたくかしこ

母上様 新太

 せつかくおからだをおだいじニなさいまし


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