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特別陳列 赤外線の眼で見る《昔語り》

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《昔語り下絵》の近赤外線撮影について

 黒田清輝筆《昔語り》は、1893年夏に9年間のフランス留学を終えて帰国した黒田が、日本で初めて描いた大画面の作品です。1898年に完成して住友春翠に購入され、住友家の須磨の別荘にありましたが、1945年に空襲により焼失しました。黒田記念館には、その制作のためのデッサン、下絵が残されています。

 フランスで、サロンの画家ラファエル・コランに師事し、アカデミックな絵画教育を受けた黒田は、神話、古代文字、歴史物語などに取材し、愛や勇気などの抽象的概念を主題とする大画面のコンポジションを画家の本格的なしごとと考えていました。帰国後、日本の主題で、日本人をモデルにこうした作品を描くべく、『平家物語』の「小督」に取材して描いたのが《昔語り》です。黒田は個々のモチーフの木炭デッサン、油彩によるデッサン、全体の構図の下絵という段階を踏んで大画面を完成させるアカデミックな制作方法をとり、その過程を紹介するため、自らが中心となって結成した美術団体「白馬会」の第一回展(1896年)にこれらの下絵を全て展示しています。

 このたびの調査は、そうした画家の意図に沿って、残された油彩による下絵の制作過程を近赤外線撮影等によって明らかにしようとするものです。

 近赤外線撮影では、赤外線を吸収する物質が黒く写ります。木炭や墨もそうした物質に含まれ、デッサンや下絵に木炭を用いることの多かった黒田の制作のあとがうかがえると期待されています。

 これらの画像は、黒田が油彩による《昔語り下絵》を描くに際して、カンバスに木炭で対象を描き、それから着色していったことをうかがわせます。僧の脚の位置など、描きなおしも行われていたようです。

 赤外線の眼を通して、黒田清輝の制作過程を追い、作品をより身近に感じていただければ幸いです。

東京文化財研究所 企画情報部
近赤外線撮影 城野誠治
特別陳列 赤外線の眼で見る《昔語り》
会場:東京国立博物館 黒田記念館2階 展示室
会期:2010年2月25日(木)~7月10日(土)

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昔語り下絵(構図Ⅱ) 反射近赤外線画像 全図
Near Infrared Image, Complete image, Study for “Talk on Ancient Romance” (Composition StudyⅡ)
木炭で描かれた全体図の画稿にもとづき、木炭で形をとってから油絵具で着色して「構図Ⅱ」を描いていることがわかります。
昔語り下絵(草刈り娘) 反射近赤外線画像 上半身
Near Infrared Image, The upper half of the body, Study for “Talk on Ancient Romance” (a Girl with a Basket of Cut Grasses)
「仲居」や「舞妓」と比べて簡略な下描きがなされていることがわかります。特に顔の部分の描き込み方が異なります。
昔語り下絵(草刈り娘) 反射近赤外線画像 肩から足
Near Infrared Image, Shoulders to the legs, Study for “Talk on Ancient Romance” (a Girl with a Basket of Cut Grasses)
油彩画の下絵では着物でおおわれていますが、この画像には、左脚の膝下部分の輪郭が明瞭に認められます。
昔語り下絵(舞妓) 反射近赤外線画像 上半身
Near Infrared Image, The upper half of the body, Study for “Talk on Ancient Romance” (a Maiko)
人物の輪郭など、ほとんど描き直しがありません。カンバスに向かう前に、充分な準備がなされていたことがうかがえます。油彩による下絵の顔部分は、頬にほどこされた陰影によってより面長に見えます。
昔語り下絵(仲居) 反射近赤外線画像 上半身
Near Infrared Image, The upper half of the body, Study for “Talk on Ancient Romance” (a Nakai-maid)
昔語り下絵(僧) 反射近赤外線画像 上半身
Near Infrared Image, The upper half of the body, Study for “Talk on Ancient Romance” (a Monk)
顔よりも両手の線が濃く写しだされています。この部分が入念に描かれていることがわかります。
昔語り下絵(僧) 反射近赤外線画像 脚
Near Infrared Image, Legs, Study for “Talk on Ancient Romance” (a Monk)
右足を後ろに引いた姿の下描き線が見えます。画中で向き合っている男が左半身を前に出しているのに対応して、僧は右半身を後ろに引いた姿で描こうとしていたようです。
昔語り下絵(男) 反射近赤外線画像 上半身
Near Infrared Image, The upper half of the body, Study for “Talk on Ancient Romance” (a Man)
昔語り下絵(男) 反射近赤外線画像 脚
Near Infrared Image, Legs, Study for “Talk on Ancient Romance” (a Man)
左腿にかかってたわむ着物の線はごく淡く、膝上の折れの線が強く写し出されています。左の腰に端折り上げた着物の折れは、油絵具で描かれた部分が多いことがわかります。
昔語り下絵(舞妓) 反射近赤外線画像 上半身
Near Infrared Image, The upper half of the body, Study for “Talk on Ancient Romance” (a Maiko)
人物の輪郭など、ほとんど描き直しがありません。カンバスに向かう前に、充分な準備がなされていたことがうかがえます。
昔語り下絵(舞妓) 反射近赤外線画像 手
Near Infrared Image, Hand, Study for “Talk on Ancient Romance” (a Maiko)
「昔語り図画稿」には男と舞妓がつないだ手を描いたものが二枚あり、画家がこの部分に検討を重ねたことがわかります。しかし、油彩画の下絵の手の部分の下絵きには明瞭な線が認められません。
昔語り下絵(男と舞妓) 反射近赤外線画像 上半身
Near Infrared Image, The upper half of the body, Study for “Talk on Ancient Romance” (a Man and a Maiko)
「昔語り下絵(舞妓)」よりも簡略な下描きであることがわかります。着物の袖の下にある腕の輪郭を意識した線が認められます。
昔語り下絵(男と舞妓) 反射近赤外線画像 手
Near Infrared Image, Hands, Study for “Talk on Ancient Romance” (a Man and a Maiko)
「昔語り図画稿」には男と舞妓がつないだ手を描いたものが二枚あり、画家がこの部分に検討を重ねたことがわかります。しかし、油彩画の下絵の手の部分の下絵きには明瞭な線が認められません。「昔語り下絵(舞妓)」の手の部分よりもさらに曖昧な下描きです。
昔語り下絵(清閑寺景) 反射近赤外線画像 全図
Near Infrared Image, Complete image, Study for “Talk on Ancient Romance” (Seikan-ji temple)
昔語り下絵(清閑寺門) 反射近赤外線画像 全図
Near Infrared Image, Complete image, Study for “Talk on Ancient Romance” (Gate of the Seikan-ji temple)
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