裸体美術品取締(らたいびじゆつひんとりしまり)と文政當路者(ぶんせいたうろしや)の責任(せきにん)
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| 坂井義三郎 | 中央新聞 | 1901/11/03 | 1頁 | 雑 |
余輩(よはい)は今回警察(こんくわいけいさつ)か白馬会展覧会の裸体美術品(らたいびじゆつひん)に加(くは)へたる取締方法(とりしまりはうはう)を失當(しつたう)なりと信(しん)ず、警察若(けいさつも)し真(しん)に風俗(ふうぞく)の為(た)めに憂(うれ)へば宜(よろ)しく適當(てきたう)なる方法規則(はうはうきそく)を設(まう)け鑒識(かんしき)ある学殖(がくしよく)ある官員(くわんいん)を選任(せんにん)して鑑査識別(かんさしきべつ)し、風俗(ふうぞく)に害(がい)ありと認(みと)むる者(もの)は断然掲出(だんぜんけいしゆつ)を禁(きん)ずべく、然(しか)らざる者(もの)は公然展覧(こうぜんてんらん)せしめて何等(なんら)の妨害(ぼうがい)をも加(くは)ふること勿(なか)れ、姑息(こそく)なる束縛(そくばく)を加(くは)へて作家(さくか)を辱(はづか)しめ観衆(くわんしふ)を妨(さまた)ぐるは洵(まこと)に失當(しつたう)なり、抑(そ)も風俗取締(ふうぞくとりしまり)の真意(しんい)は人民(じんみん)の良風(りやうふう)を護(まも)るにあり、されば作家(さくか)として観者(くわんしや)として人民(じんみん)が神聖(しんせい)なる芸術(げいじゆつ)を享楽(きやうらく)することの権利(けんり)をも保護(ほご)するこそ警察(けいさつ)の職分(しよくぶん)なれ、之(これ)を妨害(ぼうがい)するの権利何処(けんりいづく)にある、欧米各国(おうべいかくこく)の人民(じんみん)は公然裸体図美術品(こうぜんらたいづびじゆつひん)を研究(けんきう)し鑑賞(かんしやう)するの権(けん)を有(いう)するに我国民独(わがこくみんひと)り警察(けいさつ)の為(た)めに此権利(このけんり)を侵害(しんがい)せらるべきの理(り)あらんや、夫(そ)れ芸術品(げいじゆつひん)は作家(さくか)の品位(ひんゐ)を代表(だいへう)す、適當(てきたう)なる方法(はうはう)に依(よ)らずして之(これ)を以(もつ)て風俗壊乱(ふうぞくゝわいらん)と称(しやう)し其作(そのさく)の一部(ぶ)を掩蔽(えんぺい)(抹殺(まつさつ)と同(おな)じ)するが如(ごと)きは作家(さくか)を辱(はずかし)むるにあり、是豈国家(これあにこくか)が芸術家(げいじゆつか)を遇(ぐう)するの道(みち)ならんや、又(ま)た此(かく)の如(ごと)き遮碍(しやがい)を加(くは)へらるゝ時(とき)は全部(ぜんぶ)の整調各部(せいてふかくぶ)の比衡等(ひかうとう)も評賞(ひやうしよう)すること能(あた)はざるのみならず作品(さくひん)に対(たい)する先(ま)づ一種(しゆ)の不快感(ふくわいかん)を刺激(しげき)して甚(はなは)だ鑑賞上(かんしやうじやう)の妨害(ばうがい)たり、余輩(よはい)は此取締法(これとりしまりはう)の失當(しつたう)を責(せ)めざるを得(え)ず@且(か)つや芸術上裸体研究(げいじゆつじやうけんきう)の急要我邦(きふえうわがくに)の今日(こんにち)より切(せつ)なるはなし、抑(そ)も人体研究(じんたいけんきふ)の芸術(げいじゆつ)に緊要(きんえう)なるは論(ろん)を俣(ま)たず、然(しか)るに従来我国(じうらいわがくに)の技術家(ぎじゆつか)は殆(ほと)んど全(まつた)く之(これ)を閑却(かんきやく)し去(さ)りしが故(ゆゑ)に本邦芸術品殊(ほんぽうげいじゆつひんこと)に人物図(じんぶつづ)の不完全(ふくわんぜん)なること洵(まこと)に浩歎(こうたん)すべし、而(しか)も作家観者共(さくかくわんじやとも)に平然(へいぜん)として之(これ)を悟(さと)らず、将来我芸術品(しやうらいげいじゆつひん)が真(しん)の美術(びじゆつ)の域(ゐき)に上(のぼ)り得(う)る乎否乎(やいなや)の断案(だんあん)は一に裸体研究(らたいけんきう)の真面目(しんめんぼく)に為(な)さるゝと為(な)されざるとに依(よ)りて決(けつ)せらると云(い)ふも過言(くわげん)ならじ、且(か)つ裸体研究(らたいけんきう)は独(ひと)り作家(さくか)に必要(ひつえう)なるのみならず一般公衆(ぱんこうしう)の眼識(がんしき)を進歩(しんぽ)せしむることは芸術(げいじゆつ)の進歩(しんぽ)に必要(ひつえう)なれば、公衆(こうしう)に取(と)りても同(どう)一の必要(ひつえう)あるなり、@裸体美術品公展(らたいびじゆつひんこうてん)の芸術(げいじゆつ)の進歩(しんぽ)に関係(くわんけい)あること上述(じやうじゆつ)の如(ごと)し、文部大臣を始(はじ)め美術課長(びじゆつくわちよう)美術学校長乃至(びじゆつがくかうちやうないし)博物館長等文政(はくぶつくわんちやうとうぶんせい)の局(きよく)に居(を)り直接間接(ちよくせつかんせつ)に芸術(げいじゆつ)の保護奨励(ほごしやうれい)の職責(しよくせき)を荷(にな)ふ者此問題(ものこのもんだい)を閑却(かんきやく)して可(か)ならんや、文政當局者并(ぶんせいたうきよくしやならび)に江湖(こうこ)の識者速(しきしやすみやか)に猛憤蹴起(まうふんしうき)して此芸術進歩(このげいじゆつしんぽ)に妨害(ばうがい)なる盲的取締(まうてきとりしまり)を矯正(けふせい)せしめ併(あは)せて芸術(げいじゆつ)の権威(けんい)を一振(しん)せよ(十月廿七日起稿)

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