ブックタイトル「鉄構造物の保存と修復」日本語版

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概要

「鉄構造物の保存と修復」日本語版

きなかった。脱塩処置後に水や酸素を遮断し腐食の発生を防止することを目的として透明塗料が機体表面に塗布された。しかし、塗料ではどちらも遮断することはできず、脱塩を十分にできなかったこともあり、一部では腐食が進んでいる(写真11)。表面に塗布された透明塗料は、金属の質感を損ねるだけでなく、今後腐食箇所の処置を実施するさいには取り除く必要があるため、塗布するメリットはない。胴体内部に装備されていた無線機をはじめとする装備品は取り外されて別置保管されているが、脱塩処置が不十分なために腐食が進んでいるものも多く(写真12、13)、海水に浸かり塩素イオンが溶け込んだ金属部品には、脱塩処置が不可欠となる。平成4年(1992)の引き上げ時に十分な脱塩処置ができなかったため、万世特攻平和祈念館に展示される同機の装備品には白色の物質が析出していた。透明塗料の下に析出した白色の物質を放置すると、水分を呼びさらに腐食が進むことが考えられたため、国立文化財機構東京文化財研究所(以下、東京文化財研究所とする。)では劣化対策試験を平成20年(2008)5月から平成21年(2009)2月まで行い、「零式三座水上偵察機搭載機器類劣化対策試験報告」6としてまとめた。また、平成29年(2017)から平成30年(2018)の間に装備品の劣化を抑制するための保存処置が東京芸術大学にて実施された。なお、東京文化財研究所で実施した鉄とアルミニウム合金で構成された当該2部品(速度計測関連機器、およびワイヤー関連機器)の劣化対策は以下の通りである。速度計測関連機器の処置前後の状態は写真14、15、ワイヤー関連機器は写真16、17に示す。?表面塗膜除去付着物および透明塗料(サントップSACクリアー)の除去は、THF(テトラヒドロフラン)の溶剤に浸し、ブラッシングを併用して実施した。?脱塩処理ビーカーに入った純水に漬け、塩分を検出する毎に純水を交換する方法で実施。最初の6時間は1時間毎に交換した。2日目からは、純水交換後2時間毎に塩分を測定したが、今回のサンプル2部品では塩分反応はなかった。その後一ヵ月半の間、毎日水を換えて塩分濃度を測定した。しかし、塩分反応は確認できなかっ写真12脱塩処理が不十分な零式三座水上偵察機の装備品。アルミニウム合金の腐食が著しいことが判る。(2016年9月撮影)写真13左写真に写る装備品のノブ部分の拡大写真。(2016年9月撮影)写真14速度計測関連機器処置前(2008年5月、東京文化財研究所撮影)写真15速度計測関連機器処置後(2009年2月、東京文化財研究所撮影)写真16ワイヤー関連機器処置前(2008年5月、東京文化財研究所撮影)写真17ワイヤー関連機器処置後(2009年2月、東京文化財研究所撮影)62第5章航空機における金属部品の腐食とその対応について