ブックタイトル未来につなぐ人類の技17 煉瓦造建造物の保存と修復

ページ
99/130

このページは 未来につなぐ人類の技17 煉瓦造建造物の保存と修復 の電子ブックに掲載されている99ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

概要

未来につなぐ人類の技17 煉瓦造建造物の保存と修復

5.5.現状保存:貫通亀裂壁面の保存名称:旧野村さとう店煉瓦蔵建設年:明治中期構造形式:煉瓦造、瓦葺建築面積28m2所在地:茨城県土浦市中央1-12-5所有者:土浦市指定・登録(指定・登録年月日):登録有形文化財(2016.08.01)工事期間:平成23年度?平成24年度?補修の経緯この煉瓦蔵は、東北地方太平洋沖地震によって煉瓦壁面に大きな貫通亀裂が生じ、煉瓦壁面が大きくズレた(写真5-18)。余震のたびに徐々に亀裂が拡大していくなか、市で註は当初、復旧は難しいとし、取り壊す予定であった。だが、日本建築学会の有志32による補強案の提示を受け、壁面を積み直すことなく、被災した状態に近い姿で現状保存が行註われた(写真5-19)33。この方針転換の背景には、市民による保存の請願があり、震災註以前から喫茶店として活用されていた、この建造物に対する愛着が保存を後押しした34。?工法の説明亀裂が拡大する壁面を保存するため、内壁側からステンレスピンを挿入し、基礎床を新設、また、小屋組を新設する鉄骨で内部から支持する方法が採られた。亀裂の隙間には、周辺で倒壊した煉瓦造建造物から収集した煉瓦が差し込まれた。ステンレスピンは、垂直方向は2段ごと、水平方向は各煉瓦の小口積みの上辺から挿入されている(図5-7)。?所見貫通亀裂により大きく破損した壁面に対して、ステンレスピンの挿入による補強方法が実施された。この工法によって、破損箇所の積み直しや差し替えを回避することができ、当初の組積技術を保存することができた。また、ズレた状態で壁面を補強したことで、被災遺構としての価値も保持された。ただし、補強に用いたステンレスピンの劣化やズレた壁面の破損の進行に関しては、今後も点検が必要である。写真5-18被災後の内壁の状態(黒線:貫通亀裂箇所を図示)写真提供:(国立大学法人筑波大学社会工学域藤川昌樹教授)写真5-19工事後の外壁の状態(ズレた面を赤色で着色)地震により煉瓦壁面に亀裂が発生。黒が亀裂箇所。亀裂部分に煉瓦をはめ込む。赤煉瓦が差し込んだ煉瓦。図5-7亀裂壁面の補修・補強工事の流れ煉瓦壁面をステンレスピンで補強。緑丸がピン挿入位置。97