ブックタイトル未来につなぐ人類の技17 煉瓦造建造物の保存と修復

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概要

未来につなぐ人類の技17 煉瓦造建造物の保存と修復

文化財の視点を加味したものに限定すれば、表2に挙げたものが代表的な成果といえよう。まず日本コンクリート工学協会の「建築・土木分野における歴史的構造物の診断・修復研究委員会」は、部材劣化の調査・分析、構造の健全性に係る調査から、構造物の補修方法まで、煉瓦造建造物等の近代化遺産の保存と修理に係る事項を一通り整理し、その成果を報告書にまとめている。また平成21年には、文化財建造物保存技術協会が組織した「近代化遺産等修復研究会の組積造建造物の構造に関する専門部会」が、歴史的な煉瓦造建造物の構造検討に焦点をあて、実務に即した調査方法をとりまとめている。これらの調査研究と平行して、近年、文化財の実務において、煉瓦造建造物の修理事例も数多く蓄積されている(巻末資料参照)。その数は、鉄筋コンクリートや鉄骨を主体とした他の近代化遺産と比較しても多い。このことは、昭和31年、泉布館(大阪市)が煉瓦造建造物として初めて重要文化財に指定され、その後、指定件数を着実に増やしてきた煉瓦造建造物保護の歴史の一つの現れといえよう。参考までに、重要文化財に指定されている非木造の近代化遺産の件数を整理すると表3のようになり、構造別に見ると煉瓦造の数が最も多いことがわかる。また、築後年数から見ても、煉瓦造には比較的近代の早い時期に建設されたものが多いという特徴が見られる。このように煉瓦造建造物は、研究蓄積と修理実績が比較的充実している。ただ、これはあくまで近代の非木造建造物の範疇における話で、視点を文化財建造物全体に広げれば、わが国の文化財建造物の約9割を占め、100年以上の保護の歴史をもつ木造建築と比べ、研究と実践の歴史はまだ浅く、過去の研究や保存修理の検証も十分に行われているとは言いがたい。加えて、木材、鉄筋コンクリート、鉄等の材料が、今でも一般の建造物に使用され、文化財以外の分野でも活発に研究や建設事業が行われているのに対して、煉瓦を構造材として用いる新設の建造物はほぼ皆無で、その研究や技術開発も文化財を超えた広がりを持ちにくいという限界がある。つまり、修理に携わる多くの技術者にとって、煉瓦は他の建設材料よりもなじみが薄く、かつ木造建築を扱う中で培われた伝統的な修理理念や手法の適用の可否について判断できるだけの十分な材料がそろっていないというのが現状であると思う。そこで本研究は、煉瓦造建造物の保存と修理の理念および手法の確立に向けて、まず現状の課題を整理し、その解決に資する情報の収集や分析を行うことを目的として行うものとする。なお本研究は、平成28年度から5ヵ年かけて行う「近代の文化遺産の保存修復に関する研究」の初年度の研究にあたり、今後は、鉄や鉄筋コンクリートなどの別の材料を対象に研究を展開していく予定である。著者書名刊行年日本コンクリート工学協会建築・土木分野における歴史的構造物の診断・修復研究委員会建築・土木分野における歴史的構造物の診報告書断・修復研究委員会(編)平成19年文化財建造物保存技術協会近代化遺産等修復研究会組積造建造物の歴史的煉瓦造建造物の構造検討のための調査方法平成21年構造に関する専門部会(編)表2文化財の観点から煉瓦造建造物の構造に関する研究を取りまとめた報告書構造件数内訳(築後年数)50年75年100年煉瓦造71962(鉄筋)コンクリート造525389石造30228鉄骨造19118その他(混構造等)581453合計230664160表3重要文化財に指定されている非木造の近代化遺産の構造別・築後年数別件数(平成27年8月現在)7