ブックタイトル未来につなぐ人類の技17 煉瓦造建造物の保存と修復

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概要

未来につなぐ人類の技17 煉瓦造建造物の保存と修復

3.現状の対策と課題3.1.はじめに第3章では、第2章で紹介した劣化と破損に対して、現在、一般的にとられている劣化・破損対策と現状の課題について整理する。3.2.劣化対策について?水分の侵入を抑制する対策水分の侵入を抑制する環境改善に効果的な方法として、旧手宮鉄道施設の機関車庫で実施された止水層設置の事例を挙げることができる。手宮の止水層については、第5章で紹介する。しかし、多くの煉瓦造建造物では、劣化の原因となる水分の侵入に対して有効な対策が講じられないまま、劣化した煉瓦の差し替えや積み直しが行われているため、一定の期間を経て再び劣化を繰り返すケースがみられる。?撥水剤の使用について撥水剤の使用は、修理工事時に塗布されることが多いが、その中に含まれる成分の一部は材料に留まる恐れが註ある7。そのため、塗布を繰り返し行うことで、水分の侵入によるものとは異なる劣化が発生する可能性がある。例えば、塗布した撥水剤が材料に馴染まず、壁面を白濁させてしまうことがある(写真3-1)。また、撥水剤を塗布した材料に含浸させた部分と含浸できなかった部分を境界にして、塩類劣化・凍結破砕などが発生し、表面剥離を引き起こした事例もある(写真註3-2、3-3)8。?劣化した煉瓦の補修方法劣化した煉瓦の補修方法は、劣化の状況または範囲に応じて、異なる方法が採られてきた。代表的な方法は以下の通りである。写真3-1撥水剤塗布によって白濁した煉瓦壁面(白枠内)写真3-2撥水剤を塗布した境界面から再び劣化が発生した状態写真3-3通気口周囲の材に塗布した撥水剤の境界面から再び粉状化をおこしている。1差し替え註劣化した煉瓦を1本9ごとの単位で交換する補修方法。2積み直し劣化・破損などがみられる一定の範囲の煉瓦積みを、一旦解体して積み直す補修方法。3貼り付け煉瓦を貼り付ける補修方法。表面全体で貼り付ける場合と劣化した範囲のみを貼り付ける場合の2つの方法がある。4合成樹脂による整形煉瓦表面の欠失部分または撤去部分に、新たに煉瓦の粉末を練りこんだ合成樹脂剤を埋め込み整形する補修方法。今回の調査の結果、これら補修方法の採用の可否や補修範囲に関して明確な判断基準が存在せず、物件ごとに対応にバラツキがあることが判明した。?煉瓦の補修方法の問題1差し替え・積み直し補修の問題落下の危険性が低いにもかかわらず、外観上の問題から差し替えられるケースがある。劣化した煉瓦を1本単位で交換するため、補足用の煉瓦を新たに用意する必要があるが、特注品を新たに製造するにしても、煉瓦の焼き色、肌質、寸法を当初の煉瓦と合わせることは難しい。それによって、本書第2章で指摘されている組積技術の価値を保持することが極めて困難になる(写真3-4)。84第6章煉瓦造建造物の保存と修復に関する事例集