ブックタイトル未来につなぐ人類の技17 煉瓦造建造物の保存と修復

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概要

未来につなぐ人類の技17 煉瓦造建造物の保存と修復

1.はじめに1.1.背景と目的国内に現存する煉瓦造の建造物(以下、煉瓦造建造物という。)は、非木造の建造物の中で、最も多くの保存修理工事が実施されてきた構造形式である。そして、保存年代ごとに保存理念や方法は大きく変化しており、保存に対する考え方や問題とする視点も、少しづつ整理されてきた。しかし、木造建造物と比べると修理に携わる機会は限られ、文化財関係者の間でも、劣化や補修方法に関する共通理解が得られているとは言い難い状況にある。例えば、劣化した煉瓦の交換の範囲についても、物件によってバラツキが大きい(写真1-1)。3建造物の価値と補強方法?資料調査各建造物の修理工事報告書を参考にした。1.3事例集の構成まず、第1章で、背景、目的、調査手法を述べた後、第2章から第5章で、煉瓦の劣化・破損に関する事柄を扱う。具体的には第2章で、主な煉瓦の劣化・破損のメカニズム、第3章で、劣化・破損に対する現状の課題、第4章で、建造物管理の中で実施可能な劣化対策を紹介し、第5章で、煉瓦造建造物の材料と技術の保存に留意した劣化・破損の補修方法を紹介する。第6章と第7章では、構造補強に関する紹介を行う。第6章で、構造補強工法に対する現状の課題、第7章で、煉瓦造の保存と構造補強の計画について紹介する。2.煉瓦造建造物の劣化と破損写真1-1小菅修船場跡曳揚げ小屋煉瓦壁面国内に現存する最も古い煉瓦壁も長い年月の中で広範囲で差し替えが行われていることがわかる。そこで本事例集では、本書第1章から第5章までの内容を踏まえつつ、文化財所有者や修理技術者が煉瓦造建造物を管理、または修理する上で参考になりうる情報の整理を行うものとする。1.2.調査手法?現地調査本事例集を作成するにあたり、現地調査を実施した建造物は、巻末資料-1に示した通りである。そして、各建造物の修理工事報告書や煉瓦造建造物の保存・修復に関する報告書などを参考にしながら、煉瓦の劣化・破損内容やその補修方法、建造物の補強方法の記載内容から、特徴的な建造物の選定を行った。選定に用いた報告書については、巻末資料-2に示す。現地調査では、可能な限り修理工事を担当された技術者にご同行いただいた(巻末資料-3)。?聞き取り調査現地調査では、ご同行いただいた技術者や関係者、維持管理の担当者に対して、以下の3項目を軸に聞き取り調査を行なった。1煉瓦の劣化・破損対策2煉瓦の補修・補強方法2.1.材料劣化の種類煉瓦構造体を構成する材料は、大きく分けて煉瓦と目地の2つである。この事例集では、煉瓦と目地を分けることなく、煉瓦構造体の劣化を材料劣化と位置づけ扱うこととする。材料劣化の主な要因は、材料内部への水分の侵入である。水分の侵入に起因する材料劣化は、以下の5つに分類できる。1塩類劣化2凍結破砕3生物劣化4白華5煉瓦壁内の金属の腐食劣化2.2.材料破損の種類材料の破損については、地震などの自然災害と経年劣化などで生じる不同沈下の2つが主な要因である。破損の種類は以下の4つに分類できる。1亀裂2ズレ3崩壊4傾斜78第6章煉瓦造建造物の保存と修復に関する事例集