ブックタイトル未来につなぐ人類の技17 煉瓦造建造物の保存と修復

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概要

未来につなぐ人類の技17 煉瓦造建造物の保存と修復

研究の経緯とねらい北河大次郎東京文化財研究所保存科学研究センター近代文化遺産研究室長1.研究の背景と位置づけ海外の煉瓦遺構に係る協力事業の進展や、国内の近代化遺産保護の気運の高まりを背景として、煉瓦造建造物の保存と修理に関する研究は、わが国において一定の蓄積が図られてきた。東京文化財研究所も、平成10年前後から煉瓦をテーマとした研究を活発に行い、その成果を報告書にとりまとめている(表1)。まず平成11年1月、「レンガ造文化財の保存修復」をテーマとする研究発表会を所内で行い、その内容を報告書にまとめている。ここでは、煉瓦製造の歴史から、わが国煉瓦造文化財の保存修理の歩みと課題、海外(特にアジア)の遺構に見られる煉瓦の劣化や構造補強の事例、といった幅広い話題が扱われている。また平成16年1月には、「日干し煉瓦の保存」をテーマに「国際文化財保存修復研究会」が開催され、日干し煉瓦という日本ではあまりなじみのない材料を用いた遺構の保存をめぐり、世界各国の国際協力の実情、中近東における遺構の構法、材料特性について発表及び討論が行われている。さらに、煉瓦に特化しているわけではないが、平成16年度には「近代の文化遺産の保存修復に関する研究」の一環として、煉瓦造建造物を含む橋梁、トンネル、砲台などの近代化遺産を対象として、「大型構造物の保存と修復」に関する研究会を2回開催し、国内外の数多くの事例を紹介している。これら3つの調査研究を通して、煉瓦造建造物に関わる現状や課題について、分野の異なる専門家の間で情報共有が図られ、さらには研究者と実務担当者の間で、煉瓦造建造物の保存に向けた議論の共通の土台が、ある程度築かれたといえる。一方、『石造、レンガ建造物の劣化に関わる材料物性の研究』及び『文化財の保存を目的としたレンガの劣化現象と保存対策に関する調査・研究成果報告書』では、前記の報告書とは異なり、煉瓦保存をめぐる特定の課題の解決に向けた研究の成果が取りまとめられている。前者では、煉瓦・石材・土壁の塩類風化と凍結劣化に焦点を絞り、そのメカニズムの解明を行っている。そして後者では、煉瓦の劣化原因を踏まえて、材料の保存に主眼を置きながらタイ・アユタヤ遺跡、銀座煉瓦街遺構(江戸東京博物館所蔵)、碓氷峠鉄道施設(群馬県安中市)、旧日本煉瓦製造株式会社旧煉瓦製造施設(埼玉県深谷市)を対象として、保存対策の可能性について検討を行っている。材料保存に関する調査研究が進展する一方で、煉瓦造建造物の保存と修理に関するもう一つの大きなテーマである震災対策の研究もいくつか行われている。古くは鉄道総合研究所が昭和62年に刊行した『レンガ・石積み、無筋コンクリート構造物の補修、補強の手引き』のように、構造物の施設管理に直結する調査研究もある。また、著者書名刊行年東京国立文化財研究所(編)レンガ造文化財の保存修復平成12年石崎武志(研究代表者)石造、レンガ建造物の劣化に関わる材料物性の研究平成13年東京文化財研究所国際文化財保存修復協力センター(編)日干し煉瓦の保存平成17年東京文化財研究所(編)未来につなぐ人類の技5大型構造物の保存と修復平成18年東京文化財研究所国際文化財保存修復協力センター(編)文化財の保存を目的としたレンガの劣化現象と保存対策に関する調査・研究成果報告書表1東京文化財研究所で行われた煉瓦に関連する報告書平成18年6第1章研究の経緯とねらい