ブックタイトル未来につなぐ人類の技17 煉瓦造建造物の保存と修復

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概要

未来につなぐ人類の技17 煉瓦造建造物の保存と修復

時に定性的な判断も欠かせません。モデルに頼ることはしません。西川英佑氏現在イタリアで耐震対策が現在どのように進められているかをお伺いしたい。以前、2012年に地震被害のあったフェラーラに行って来たのですが、町には修理にあわせて耐震補強している箇所が何カ所もありました。今、イタリアでは、このような耐震対策は地震後の復旧にあわせて行われているケースが多いのか、あるいは地震係数の高いところでそのような対策を重点的に進めるような政策があるのか、そのような傾向があればお聞かせ下さい。クラウディオ・モデナフェラーラ地震の後と比較すると、今回の地震の後になってからの方が、多くの耐震対策に関する動きがあります。フェラーラ地震後には、既存の法規に従うことについて何も問題はなかったと感じています。フェラーラでは、エミリア地方全体について言えるのですが、地震によって引き起こされた最大の問題、一番の関心事は工業用途の建築に対する被害であったと考えています。今回のイタリア中部地震は、今まで以上に大きな議論を呼び、多くの発議がなされました。しかし、法規に関しては、現時点において何も新たなことは起きていません。法規はここ数年かけて改訂を進めてきたところで、今までに述べてきた考えに基づく内容となっています。ここで問題となるのは、何が一番の危険であるかです。例えば国内で見ると、地震ハザードマップを改訂する重要な発議があります。イタリア国立地球物理学火山学研究所(INGV:Istituto Nazionale Geofisica e Vulcanologia)の巨大リスク対策委員会(extreme risk committee)では課題の多い地震ハザードの見直しに関する研究が報告されています。今回の地震をきっかけに、地震ハザードマップの信頼性に関心が寄せられるようになりました。私個人の意見としては、この委員会でも言いましたが、現状の地震ハザードマップに反して、歴史的建造物には平均して0.3 ? 0.4程度の地震に対する耐震性があるので、どのように改訂しようとも、地震ハザードマップを継続的に更新してゆく必要があると考えています。このハザードマップは数ヶ月のうちに改訂される予定です。問題は地震に対する建物の危険性、脆弱性であって、特別委員会では再建行為にどのような対応をしてゆくか、ということについてもミーディア、カラーニと同様に議論しています。イタリアで新たな課題となっているのが、同じ場所に再建するのではなく、他の場所に(町ごと)移して再建する可能性についても考えることです。例えば、歴史的な観点からは何が重要になるか。イタリアでは初めての経験です。委員会の委員のうち3,4人は、再建のための委員会や個々の建築を耐震性によって分類する規則を策定する公共の委員会に、重なって所属するというおかしなことも起きています。地震後に行わなければならないことだけではなく、被害軽減のために(事前に)行うべきことなど、地震対策に関する活動は多岐に渡ります。イタリアでは過去40年間で、平均5,6年ごとに建物の倒壊や、死傷者を伴う地震が発生してきましたが、このことに関心が寄せられるようになったのは初めてのことです。このような被害を経験し、世論として地震に対する考えを変えてゆく必要性が挙げられるようになってきたのです。一般に、どのように再建するかは大きな問題です。今回初めて文化遺産を所管する官庁が、倒壊した歴史的建造物を取り扱うための方針を準備しました。これら建造物を三つに分類し、瓦礫の中から重要なものを選び出し、将来的にこれらの部材を再建に取り入れて再用するために保管します。不要な瓦礫は除去されるので、(他の建物の)修復に用いることもできます。先にも話題にしましたように、地震時の大きな課題となるのは教会です。ノルチャ(Norcia)の町では、一般の建物に対する被害はたいへん小さく、住民たちは戻ってきています。しかしながら、ほとんどの教会建築が倒壊したので、今は教会の問題に集中しています。教会は宗教施設であるだけでなく、歴史の象徴でもあります。加えて、地震によってほとんど全壊した中心市街地を再建することも大きな課題となっています。どのようにするか。皆様もローマでの委員会に参加されれば、この問題についての議論に加わることができるかと思います。73