ブックタイトル未来につなぐ人類の技17 煉瓦造建造物の保存と修復

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概要

未来につなぐ人類の技17 煉瓦造建造物の保存と修復

イタリアでは“retrofit”と“improvement”を、“耐震基準に合致するまで行う補強”と“少しでも耐震性を向上する補強”という意味で用いています。なので、これらの言葉はそのまま用いるか、あえて言うならば“基準充足補強”と“性能向上補強”となるかと思います。今回の改正はレトロフィットの求める耐震基準を新築同等から新築の0.8倍にするというものと解釈できます。改正によって基準法は安全になり、改良された建物は、手を加える前より安全になります。どれほど改善する必要があるかを具体的に挙げるまでもなく、改善による効果があるのです。改良の度合いの判断は、建物の用途や所有者の設計に関する意向にもよります。手を加えることによって得られた安全性のレベルが建物の用途に見合わない場合には、用途を変更することを推奨しています。学校建築でよく見られることですが、検証を重ねて、建物を改良します。それが歴史的建造物でレトロフィットが許可されない場合、学校として使い続けるのか、あるいは用途を変えて生徒たちを他の建物に移すのか、判断が求められます。規則としてはこのようになっていますが、先ほどから定性的な判断を話題にしているように、定性的な値が耐震性能(capacity)を定めるのに使われることを意図しています。一般に許容限度は計算によって求められ、既存建築を扱う際には、計算だけでなく定性的に判断しなければなりません。このように申し上げながら計算もするのですが、あまりにも荒っぽいので、いずれにしても憶測を含むものとなります。お見せした組積造の各種類の耐震性はどれほどでしょうか。基準法には組積造の種類ごとに、範囲や値が定められており、たくさんの選択肢があります。ここに示された値は特性を表すものではあるものの、不確定な部分を含んでいます。ゆえに、既存建築、特に歴史的建造物のインターベンションに伴う不確実性は非常に高くなります。定められたパラメーターを用いて正確な計算ができると考えるのは幻想に過ぎません。最後に、建物の許容限度を決定するに当たっては、定性的な判断をして下さい。ここに設計の可能性があります。遠藤洋平0.25、0.35というのは基盤面での速度です。基盤面、いわゆる地山(base rock)の上に地盤があるので、その条件によって0.25から0.8までの幅があります。地盤によって(A,B,Cに区分)、0.25から0.8まで増幅し得ます。0.25というのは、基盤面での基準のもので、実際の計算時には地盤の条件によって変更するということをモデナ先生は説明されました。クラウディオ・モデナ地震の危険性を4段階に区分し、それぞれに対する行政の指針を示しています。別の観点を紹介します。確認すべき項目に、4つの限界値(limit states)があります。「使用限界」(基準期間(reference period)がたいへん短く、すなわち再現期間もたいへん短い)、「損傷限界」、「安全限界」、及び「倒壊限界」です。すべての限界値について検証すれば、高い精度の結果が得られることを言いたかったのです。この検証は、非常に大きな地震を対象として行うもので、建物の寿命の間に発生する可能性も高くなります。ゆえにこれは別問題です。地震動の3要素の3つの応答スペクトルです。一般的には水平方向の力が最も重要なものになります。基準法では、どの規模においても、表面最大加速度の極限値(limit state value)のそれぞれに対して、例えば0.6が想定されています。0.6は基準法で定めている数値ではありません。この地図では、緯度と経度を入力すると、この地点における人命の安全性確保のための限界値に対応する表面最大加速度として0.33が得られます。これは最大値です。イタリアのすべての地点において、30年から2,000年の再現期間を想定し、すべての再現期間について、一定期間中に発生する可能性が定められています。腰原幹雄歴史的建造物や伝統的な建物を対象とする際に用いる係数についてお伺いしたい。歴史的建造物においては、予想される地震規模に対して新築とは異なる係数を用いるのでしょうか。クラウディオ・モデナ既存の歴史的建造物を対象とする場合には、新築と同じ耐力を求める設計がなされるわけではありません。データとして示すことは困難です。基準法では、既存建築に手を加えて新築同等に安全にすることができると定め、これをレトロフィットと呼んでいます。しかし、手を加えるならば改良しなければならないので、その前と後に安全性を算出する必要があります。改修によって以前より安全性が向上したことを証明することが求められます。安全性を示すために計算が必要となりますが、同72第5章全体討議