ブックタイトル未来につなぐ人類の技17 煉瓦造建造物の保存と修復

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概要

未来につなぐ人類の技17 煉瓦造建造物の保存と修復

板書4打設されたコンクリートは経年により変形し、小さなひび割れも発生することでしょう。破損状況を観察しただけでは、どこに荷重がかかって変形したのかわかりません。壁の部分によっては荷重がかかっていない場合もあり、外向きに倒れやすい状態になります。震動台による実験では、最上階において面外方向への顕著な倒壊が見られました。接合部が適切でないと、建物はこの範囲から倒壊します。しかし鉄筋コンクリート造にすると、水平方向の動きが小さい場合には下層が倒れることもあります。鉄筋コンクリートの連続面ではどこに力がかかるかわかりませんが、木造の梁では直下に力が伝わることがわかります。(板書5)例えば、デュフリ教授によって壁の上端にこのように繋ぎ梁を設ける方法が考案されました。鉄筋コンクリート造ではなく、同じ組積造を部分的に補強したものを用いて壁上端の強度を高め、連続した躯体としたのです。いうことですが、どこまで補強するのでしょうか。日本では、建築基準法と同じ性能、いわゆる1.0の補強をすることを目標にしています。イタリアの補強では0.8を目標とすると言われていましたが、他に目標があるのか、あるいは実際に可能な範囲での補強で終わるのか教えていただきたい。クラウディオ・モデナ地震動の強さは応答スペクトルに(応答の)最大値として示されます。基準法では各地点の各再現期間に対応する応答スペクトルを、最大応答加速度およびその値を取る範囲、地動加速度、(スペクトルの)形状によって定めています。この地動加速度は工学基盤面上のものを表しております。イタリアではこの地動加速度の最大値が0.33ですが、各地点の表層地盤の増幅で2から3倍になることもあります。しかしながら、新基準では先に触れたように、定性的な判断を採用しています。例えば(板書6)、地震動の大きい地域における新築に対する基盤面での最大加速度を0.35としています。ゆえに応答スペクトルはこのようになり、応答スペクトルはシステムの力学を決定します。一方、マイクロゾーニング(local micro zoning)によって定められた各地点の(表面地層の)増幅特性も加わり、最大加速度は0.7、0.8、あるいは1Gにさえなります。ラクイラでの参照値は0.25ですが、実測値は0.8でした。これは新築設計時に用いる値です。板書5小さな石材を積んだ構造物(rubble stone masonry)については、局所的な破壊が発生しやすいという別の問題があります。過去には、しばしば鉄棒の挿入で鉄筋コンクリートを石造に緊結する事例が見られました。地震後には鉄筋コンクリートと鉄棒は見えますが、組積造の部分はなくなってしまったことがわかります。手を加えるのは最小限にするべきであることを、このことからも確認できます。安全性の評価には計算による検討が必要ですが、定性的な判断も必要です。定性的な判断とは、その建物では過去にどのようなことが起こってきたかを知ることから始まります。構造応答を大幅に変えるならば、定性的な判断、個人的な判断に頼ることとなります。西岡聡イタリアにおいては、定性的に補強が行われていると板書6既存建築に手を加えることについて我が国の基準法では、レトロフィットするか、耐震性を改善することとしています。新基準は、近いうちに刊行される予定です。現行法では、既存建築のレトロフィットには新築と同じ性能を求めていました。これに対して新基準では、例えばレトロフィットの基準として0.8, 0.8, 0.64が挙げられています。新基準では、同条件のもとで構造を変えない場合、すなわち新たな床を付加したり新たな部分を増築しない場合に、この値が適用されます。71